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医療者と患者が同じ目標に向かって一緒に進んでいくための「SDM」の実現に向けて 第48回肺がん医療向上委員会 WEBセミナー
[公開日] 2025.10.07[最終更新日] 2025.10.06
10月3日、肺がん医療向上委員会主催のセミナーがオンラインにて開催された。今回は肺がんにおけるSDM(協働意思決定)に焦点を当てた90分に渡る講演・ディスカッションが行われた。
勝俣範之先生(日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科 教授)はSDMに関して、患者さんの意向や価値観などを尊重しながら行う双方向のコミュニケーションプロセスであるとし、最終的なゴールに患者さんの納得や満足があるとした。
またSDMのメリットとして、特にdecision aids(意思決定支援ツール)を例に挙げ、ツールを使うことによって治療選択肢やそのリスク・ベネフィットに関する患者さんの正確な理解につながることを強調した。一方で、ツールはあくまでSDMの手助けをするものであり、これを使うことで満足せずに有効活用していくことが重要であるとコメントした。
長谷川一男氏(肺がん患者の会ワンステップ 理事長)は、患者目線でのSDMの重要性を説明し、肺がん患者121名を対象に2024年12月27日から2025年1月7日に実施した調査結果を示した。同調査では、SDMと治療満足度に相関がある一方で、様々な治療選択肢の提示とそれらに対する徹底的な比較検討が不足していることが示唆された。また長谷川氏は、「情報・目標・責任を共有しながら一緒に議論して意思決定しましょう」というのは、単なる「相談」とは違い、患者には高いハードルになることを指摘した。
これらの課題に対し、患者は治療選択における主体であり、医師と一緒に目的に向かって進んでいくべきであるという、自身の役割を意識することが重要だと長谷川氏。また、秋田厚生医療センターで告知の際に使用されているケアプランニングシートを例に挙げ、まずは自分の大切にしていることを言葉にするだけでも、その後の治療選択の軸ができ、生き方に寄り添う選択をするためのSDMの実現につながるのではないかとコメントした。
ディスカッションの中では、勝俣先生が過去に担当したという患者さんの症例(90代男性、非小細胞肺がん、ドライバー変異なし、多発性骨転移あり、PD-L1=30%、G8スコア15点、一人暮らし)が提示された。年齢や状況から、積極的な治療を進めない医師もいるという現実がある一方で、この患者さんは実際には自営業や畑仕事ができるほど元気で、治療の希望も強く持っていたために、免疫療法を実施したとのこと。年齢などの情報だけで一般化するのではなく、個々の患者さんに合わせた治療選択の重要性が議論された。
ただし、SDMの実践にはまだまだ課題もある。長谷川氏は自身の経験として、自分の治療歴や状況の変化などをまとめ、リスクを背負う覚悟も含めて治療の意思表示をしたエピソードを紹介。これに対して谷﨑潤子先生(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 講師)は、実際に明確な意思表示をする患者さんは4分の1程度、逆に“先生にお任せしますタイプ ”が4分の1程度、残りの半数近くはその中間に位置する印象なので、医師側も微調整しながらコミュニケーションを進めているのが実情だとコメントした。また勝俣先生は、“お任せ”することとSDMは連続的なものであり、“お任せ”の場合であっても完全な一方通行にならないよう、患者さんが治療に何を求めるのか、ということを医療者は常に意識していく必要があるとコメントした。
また、時間のない医師だけではSDMには限界があり、その解決策として多職種連携がある。谷﨑先生は、医師の時間にはどうしても制限があるため、患者さんが聞きたいことや理解できていない部分を把握する看護師や、副作用などに踏み込んで薬の説明をする薬剤師の役割は大きいと話す。しかしながら日本の医療においては、医師だけでなく、看護師や薬剤師のマンパワーにも限界があり、多職種の介入には施設毎に大きな差があると谷﨑先生は指摘した。
SDMという概念は、がんの告知すら当たり前ではなかった時代やインフォームド・コンセント(IC)を実施してきた時代にはなかなか馴染みがない概念であるが、教育段階からSDMの考え方に触れてきた若い世代の医師がこれから現場で活躍する時代。若手医師世代の谷﨑先生も、今後SDMの考え方が当たり前にできる医師が増えていくことが期待できるのではないかとコメントした。
最後に長谷川氏は、「今回の講演を通して、医療者の方々が色々と考えながらいることを知り、患者側である自分たちもやれることがあるのではないかと思いましたし、逆に医師にお任せしたいと考える患者さんがいてもいいと思います。患者さんは安心して治療に向き合って、悩むところはとことん悩みながら進んでいくことができる状況になってきていると感じています」と語った。
参照元:
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