5月14日、金原出版株式会社は、「がん患者さんのための栄養治療ガイドライン」発刊の発表に合わせて、記者会見を実施した。
日本栄養治療学会の活動内容紹介(北里大学医学部 比企直樹先生)
「栄養治療」は、確実なエビデンス(例: どんな栄養素をどのくらい摂取するとどのような効果があるか)をもとに、がん患者さんの体力維持や副作用軽減、予後改善につなげるためのもの。令和6年の診療報酬改定にて、低栄養の診断基準(GLIM基準)が設けられ、栄養治療が重要視されるようになってきたと比企先生。日本には、日本栄養治療学会(JSPEN:Japanese Society for Parenteral and Enteral Nutrition Therapy)という世界最大の栄養治療学の学会があり、医師・薬剤師・栄養士など多職種が関わって活動している。また、患者や家族の声を反映したより良い栄養治療を目指し、患者・市民参画(PPI)にも取り組んでいる。
そして今回、患者さんに対するアンケート(詳細は後述)をもとに、がん治療における栄養の役割を分かりやすく解説する道しるべとして、2025年2月、「栄養治療ガイドライン」を作成するに至った。既にがん診療連携拠点病院およびがん情報ギフト寄贈館(図書館)に向けて1172冊が寄贈され、誰でも手に取れるようになっているという。「栄養治療は大切だ、というところから一歩踏み込んで、どんな症例に対してどのように重要なのか、どんな“治療”なのか、ということが広く理解されるようになってほしいと思います」(比企先生)
がん患者さんのための栄養治療ガイドラインについて(岡山済生会総合病院 犬飼道夫先生)
今回発刊されたガイドラインは、JSPENのPatient Advocacy委員会とNPO法人キャンサーネットジャパンが協働で実施したアンケートの回答に沿う形で作られた。アンケートは合計334人(87.1%ががん患者さん、その他ご家族等)が対象であり、6割以上が女性、また若年患者さんが多い傾向(40-60代が併せて6割以上を占める)があった。
治療歴として手術経験がある患者さんが多いにもかかわらず、アンケートの中では手術に関する悩みが占める割合は少ない、という結果であった。これに関して犬飼先生は、実臨床で様々な介入が実施されており、既に患者さんの悩みが解決できているケースが多いことを反映している可能性に言及した。また、栄養学をメインに実施したアンケートだったにもかかわらず、予想に反してリハビリテーションに関する悩みが多い一方で、口腔ケアに関する悩みが少なく、食事や味覚の問題解決における口腔ケアの重要性を認識できていない可能性が指摘された。
現在副作用の評価基準(CTCAE)の副作用基準では、栄養治療に関する対処法が記載されているが、実臨床での認識・対応は十分ではないのが現状だ。患者さんの副作用の程度にかかわらず、薬物療法は栄養治療と共に進んでいくものだということが既に明記されていると犬飼先生。「副作用が重症化する一歩前に栄養治療による介入を実施してほしいです」(犬飼先生)
実際のガイドラインは、栄養、リハビリテーション、口腔ケアの3つの観点から書かれている(詳しくは
ガイドラインの目次項目参照)。「知識として持っているだけでなく、実際の患者さんの行動変容につなげるためには、永続的な他職種での対応が重要です」(犬飼先生)
今回の患者さん向けガイドライン作成に続き、より個別化された詳細な対応について書かれた医療者向けガイドラインの作成が進んでいるという。これを受けて、患者さん向けガイドラインも改訂を重ね、個々の患者さんに対応できるガイドラインとなっていくことが期待される。
また犬飼先生は、まずは患者さんやご家族に、「栄養治療」というものを認知してもらい、主治医や医療スタッフと相談ができるきっかけになれば良いとし、患者・医療者双方が栄養学の重要性を認識し、栄養治療が発展していく流れを作っていきたいと展望を語った。