2025年4月22日、BeiGene Japan合同会社(ベイジーンジャパン)は都内でメディアセミナーを開催。同社の安達進社長はベイジーン社の世界戦略を、国立がん研究センター中央病院の伊豆津宏二先生は血液がん治療薬「ブルキンザ(一般名:ザヌブルチニブ)」の臨床的意義と可能性について解説した。
「CROフリー」を目指すベイジーン社の理念とビジネスモデル

セミナーの冒頭、ベイジーンジャパンの安達社長は、同社の核心的ビジョン「“Cancer Has No Border, Neither Do We.” ― がんに国境はない。だからこそ私たちの挑戦にも限界はない」を紹介。2010年に米国人起業家ジョン・オイラー氏らにより設立されたベイジーンは、革新的ながん治療薬へのアクセスが世界の患者の約2割に留まる現状を打破し、「より多くの患者に、より早く、より安価に新薬を届ける」ことを使命としていると語った。
この実現のため、ベイジーンは「ヘッドクォーターレス」という柔軟な組織体制をとり、全世界1万1000人超の従業員がグローバルに連携。研究開発においては、全従業員の約1割にあたる1100人が基礎研究に、3700人がグローバル臨床開発に従事し、自社での分子創出から臨床試験、製造までを一貫して行う「CRO(医薬品開発業務受託機関)フリー」を目指す。
安達社長は「CROフリーにより、コストを約30%削減し、開発スピードも向上できる。2023年度には13の新規分子がフェーズ1試験を開始し、これはオンコロジー領域で世界2位の実績だ」と胸を張った。米国プリンストンや中国に自社工場も有し、生産体制も強化している。
こうした戦略が奏功し、2023年の全世界売上高は約5700億円(前年比55%増)を達成。2023年第3四半期にはノンGAAPベースで初の営業黒字化を果たし、持続的成長への軌道に乗っている。安達社長は「日本市場においても、グローバル試験への参加や国内開発を通じ、革新的な治療薬を迅速に届けたい」と意気込みを語った。
CLL/SLL、WMの新薬ブルキンザ、その特徴は

続いて登壇した国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科の伊豆津宏二先生は、ブルキンザが対象とする慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、原発性マクログロブリン血症(WM)について解説。これらはB細胞性の血液がんで、日本では希少がんにあたる。
ブルキンザは、B細胞の生存や増殖に関わるBTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)を選択的に阻害する第2世代の経口薬だ。伊豆津先生は「第1世代BTK阻害薬イブルチニブは有効性が高い一方、オフターゲット効果による心毒性などが課題でした。ブルキンザはBTKへの選択性を高め、副作用を低減しつつ有効性を維持することを目指して開発されました」と説明。1日2回服用でBTK阻害に必要な血中濃度を安定して維持できる点も特徴だという。
臨床試験で有効性と安全性を両立、既存薬に対する優位性も
ブルキンザの臨床的価値は、複数の大規模国際共同第3相試験で示されている。
- 1.再発・難治性CLL/SLL対象「ALPINE試験」: イブルチニブとの直接比較で、ブルキンザ群はより高い全奏効率(ORR:78.3% vs 62.5%)を示し、無増悪生存期間(PFS)でも良好な傾向が見られた。特に心房細動の発現頻度はブルキンザ群で有意に低かった(5.2% vs 13.3%)。
- 2.未治療CLL/SLL対象「SEQUOIA試験」: ブルキンザ単剤療法が、従来の化学免疫療法(BR療法)に対してPFSを有意に延長した。
- 3.WM対象「ASPEN試験」: イブルチニブとの比較で、ブルキンザ群はより深い奏効(VGPR以上:28.4% vs 19.2%)を達成し、PFSも良好な傾向を示した。心房細動の発生も低かった(3.0% vs 15.3%)。
日本国内の第1/2相試験でも海外と同様の有効性と安全性が確認されたという。伊豆津先生は「ブルキンザは有効性と安全性のバランスに優れ、特に心血管系リスクの低減は高齢患者さんが多いこれらの疾患で大きな利点となるでしょう」と評価した。
質疑応答では、他のBTK阻害薬との使い分けについて質問が集中した。伊豆津先生は「直接比較試験がないため明確な基準は難しい」としつつ、「各薬剤の臨床データ、副作用プロファイル、患者さんの状態を総合的に考慮し、最適な薬剤を選択します。ブルキンザは心毒性リスクの低い有力な選択肢であり、治療の個別化に貢献するでしょう」と述べた。
安達社長には日本市場での営業戦略や薬価に関する質問が出た。安達社長は「MR数は非公表ですが、科学的情報提供を重視する少数精鋭の体制です。薬価についてはコメントを控えますが、企業理念は革新的治療薬を多くの患者さんに届けることです」と回答。コスト優位性については「自社主導のグローバル開発体制が源泉であり、その価値は最終的に患者さんに還元されるべき」との考えを示した。
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BeiGene Japan合同会社 プレスリリース