国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター (略称:C-CAT)は5月8日、登録患者数が10万人を超えたことを発表し、記者会見を実施した。
がんゲノム医療の一環として実施される遺伝子パネル検査が保険診療として開始されてから、もうすぐ6年。C-CATでは、全国のがんゲノム医療中核拠点病院(13施設*)・がんゲノム医療拠点病院(32施設*)・がんゲノム医療連携病院(235施設*)で実施された遺伝子パネル検査の検査結果に基づき、治療選択肢を含む情報(C-CAT調査結果)を提供するとともに、収集された情報を患者さんの同意に基づいてデータベース化し、その利活用を進めてきた。河野隆志先生(C-CATセンター長)は、C-CATは①優れた医療の提供と、➁未来の医療のための研究開発の促進、の両輪から成る、と解説した。
*数字は令和7年4月1日時点のもの
医療提供の支援となるC-CAT
遺伝子パネル検査数は増加傾向にあり、2025年3月末時点で、C-CATに登録された患者さんの総数が100,123例と、10万例を超えたことが確認された。登録患者さんは、難治性の高い膵臓がんや、希少がんである軟部組織、中枢神経系/脳のがんが多いという特徴がある。河野先生によると、遺伝子パネル検査が、これらの治療法が乏しいアンメットニーズが高いがん種において多く実施されているという実臨床の実態を反映した結果となっている。
また検査結果に基づく治療は、標準治療だけでなく、企業治験(13.2%)や医師主導治験(4.2%)、また患者申出療養(7.4%)が選択されていた。特に患者申出療養による適応外使用(受け皿試験)に関しては、現時点で753例に実施されていることが示された。
研究開発のためのC-CAT
現在C-CATに登録されている患者さんの99.6%が、情報の二次利用に同意しており、この高い同意率がC-CATの利活用を可能にしている、と河野先生は強調。医師と患者さんの信頼関係を反映していることを示しているのではないか、とコメントした。
インテージヘルスケア株式会社が実施したアンケートでは、がんゲノム医療/遺伝子パネル検査に対して、「将来の日本の医療に貢献できる」ことに高い期待を寄せていることが示された(がん患者、ご家族、一般生活者それぞれにおいて、7割近くが「大いに期待する、期待する」と回答)。河野先生は、アンケート実施前に、実際の検査後の治療薬への到達度が10%未満であることを説明していたことに言及。「それでも このデータを使って未来のがん医療を良くしてほしい、というがん患者さんを含めた多くの方の気持ちが、このアンケートにも表れています」(河野先生)
現在C-CATに集約された遺伝子変異情報や臨床情報は、16の国内製薬・検査企業を含む、70施設に共有され、研究や医薬品開発等に役立てられている。例えば、治験の実施が難しい希少がんや希少フラクション (希少サブタイプ)における治療薬の適応拡大に貢献している。
またC-CATに集約されたデータは、日本人がん患者さんの遺伝子変異情報のみならず、患者さんの(個人情報を除く)細かい臨床情報、実施された治療やその後の経過(有効性や副作用等)を知ることができ、日本のがんゲノム医療のリアルな姿を示している、と河野先生。今後益々、創薬を担う製薬会社やアカデミアによってC-CATのデータが活用されることで、①日本人のがんの特徴やアンメットニーズが理解され、➁日本人に合った臨床試験・治験が活性化し、➂その臨床試験情報がC-CAT調査結果によって各医療機関に提供され、④多くの患者さんに有効な治療法が届く(=ドラッグラグ・ロスの解消につながる)、という好循環が生まれることが期待されている。
最後に河野先生は、C-CATの取り組みに関わる患者さん、病院や企業の方々に対する感謝の言葉とともに、講演を締めくくった。
C-CATの中核拠点病院等連携室長の大熊裕介先生は、C-CATは現時点では患者さんの治療に役立つには不完全であり、この検査の恩恵を受けることができなかった患者さんも大勢いることを重く受け止めたい、とする一方で、がん医療の進歩は10年単位で見ていく必要がある、とコメント。登録者10万人は通過点に過ぎず、今後もより医療に役立つC-CATを目指していきたい、と記者会見を締めた。
関連リンク:
国立がん研究センター プレスリリース