国立がん研究センターは11月20日、HER2陽性胆道がん患者さんを対象に実施された抗HER2抗体薬物複合体製剤エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)の医師主導治験(HERB試験)の結果を発表した。
現在胆道がんの治療は、切除が困難な場合や切除後に再発した場合には、薬物療法が行われるが、その選択肢は限られており、新薬の開発が望まれている。今回対象となったHER2陽性(HER2タンパク質の過剰発現・HER2遺伝子の増幅が見られる状態)症例は、胆道がん全体の1~2割を占めると報告されている。患者数が少ないことから企業主導の治験実施が進みにくい現状があり、国立がん研究センターの産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業であるSCRUM-JapanのMONSTAR-SCREENの基盤を活用し、同センター中央病院 臨床研究支援部門の支援のもと、医師主導治験(HERB試験)として実施された。
同研究で使われたエンハーツは、HER2を標的とした抗体薬物複合体(ADC)であり、すでにHER2陽性/低発現の乳がん、HER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の肺がん、HER2陽性の胃がんで保険適用となっている。また、最近では臓器横断的な開発も国内外で進められているが、胆道がんのみにフォーカスした研究は今回が初めてである。
具体的な試験デザインは、IHC及びISHでHER2の発現(HER2陽性および低発現)が確認された、ゲムシタビンを含む治療に不応・不耐の切除不能又は再発胆道がんに対し、エンハーツ5.4mg/kgを3週毎に投与。主要評価項目として中央判定に基づく奏効割合を評価した単群の多施設共同第2相試験である。
評価対象は22例(胆のうがん11例、肝外胆管がん6例、肝内胆管がん3例、乳頭部がん2例)であり、前治療数中央値が2(範囲1~4)であった。主要評価項目である奏効割合は36.4%(8/22、CRが2例、PRが6例、[90%信頼区間:19.6–56.1])で、事前設定した閾値15%を有意に上回った(P=0.01)。また、HER2低発現8例においても1例に奏効が認められ、一定の有効性が期待できる結果であった。

(画像はリリースより)
グレード3以上の治療関連有害事象は81.3%(26/32)であり、主なものとして貧血が53.1%、好中球減少が31.3%、白血球減少が31.3%であった。また8例(25.0%)に間質性肺炎が発現し、グレード1が3例、グレード2が1例、グレード3が2例、グレード5が2例であった。
以上により、HER2陽性/低発現の胆道がんに対するエンハーツの有効性が示唆された一方で、間質性肺炎に対しては注意が必要であると考えられる。同治験の結果は、胆道がんにおけるHER2標的治療薬の開発の礎として、今後の研究開発をさらに活発化させることが期待される。
エンハーツは、すでに米国食品医薬品局(FDA)より、前治療歴があり代替の治療手段のない切除不能または転移性のHER2陽性(IHC 3+)固形がんに係る一部変更承認を取得しているため、今後の実臨床において、胆道がんにも広く使われる可能性がある。また胆道がんは、腫瘍による閉塞性黄疸や胆管炎といった、他のがん種であまり見ることが無い特徴的な病態を呈することが多いため、胆道がんに限定した同薬剤の有効性、安全性の情報は、今後の臨床現場の活用において参考になる情報となり得る。
なお同研究結果は、米国学術雑誌「Journal of Clinical Oncology」に掲載されている。
参照元:
国立がん研究センター プレスリリース