2024年11月7日、ミリアド・ジェネティクス合同会社は「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)を考える日」の制定を記念し、イベントを開催。この記念日をきっかけに、HBOCに対する社会的認知を深め、早期発見や予防につながることが期待される。
HBOCとは?
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)は、BRCA1やBRCA2などの遺伝子に変異があることによって、乳がんや卵巣がんのリスクが高まる体質のことである。
日本においては、HBOCの認知度は依然として低く、多くの人々がその存在を知らないという現状があり、ミリアド社は、この問題を解決すべく、より広く一般に認知してもらうことを目指して「遺伝性乳がん卵巣がんを考える日」を制定した。
記念日の制定と共に進められる啓発活動
イベントの中で、一般社団法人日本記念日協会の加瀬清志代表理事から、ミリアド・ジェネティクス合同会社に記念日登録証が授与された。
倉岡代表社員は、HBOCの社会認知と啓発活動に注力してきた企業として、記念日の制定が啓発活動の転換点となることを強調した。
また、ミリアド社と株式会社エスアールエルが共同で実施したHBOCに対する実態調査結果も発表。1000名の20~60代女性を対象にしたこの調査では、約8割の女性が乳がんを身近な病気だと認識している一方、HBOCに関する認知度は7割近くが知らないと回答するなど、HBOCに対する認識の低さが浮き彫りとなった。
特に、乳がんや卵巣がんのリスクを管理するための遺伝子検査に関する理解が不足していることが課題となっており、情報提供の重要性が再確認された。
トークセッション:医療現場の意識と課題
イベントでは、医療関係者やHBOC患者団体代表によるトークセッションも行われ、HBOCに対する認知度向上とその課題について議論が展開された。
中村清吾先生(昭和大学臨床ゲノム研究所 所長/昭和大学病院ブレストセンター長)は、米国留学中の1997年にHBOCという言葉を知ったが、当時は「遺伝性」という言葉がタブー視されており、医療者の中でも広く知られているものではなかった。それから30年以上経った現在、HBOCに関する認知度が向上した一例として、米国の女優アンジェリーナ・ジョリーが乳房の予防的切除を公表したことを挙げた。
しかし、まだ日本の医師の中でも日本人患者におけるHBOC診断の重要性が認知されていないことから、中村先生はHBOCの症例に関するデータベース構築を進め、医師の中でもHBOCに対する認識を広めていく必要性を強調した。
また、HBOCであることを知っていれば、積極的な検診の受診による早期発見により、抗がん剤を利用がん治療や再発のリスク低減につながることから、遺伝カウンセリングは非常に価値のある医療行為であることが述べられた。
植木有紗先生(がん研有明病院 臨床遺伝子医療部 部長)は、HBOCの診断が患者にとって治療の選択肢や予防の手段を提供する重要な情報であると述べ、遺伝子医療の進展とともに、医師が患者に正確な情報を提供することの大切さを訴えた。
がん研有明病院では患者だけでなく、医療者に対しても遺伝リテラシーの向上を目的とし、正しい知識を主治医、担当医そして看護師や薬剤師、さまざまな医療スタッフが遺伝性腫瘍の診断の意義を理解した上で、各施設において診療科を跨いだチーム医療が行われることを目的に「Gene Awareness」という活動を通した教育プログラムを展開している。
太宰牧子氏(特定非営利活動法人クラヴィスアルクス 理事長)は、自身が乳がんと卵巣がんを罹患し、HBOCを診断された経験をもとに、遺伝子検査とその保険適用が進んだことで、患者がよりアクセスしやすくなったことを強調。一方、遺伝子検査だけの費用ではなく、HBOCであると診断されたのちの、サーベイランスのための検査や予防的治療の費用など、保険適用となったのはほんの一部で、未発症の家族への保険適用が進んでいない点を今後の課題として挙げた。
また、遺伝カウンセリングを受けた患者からは、「遺伝」という言葉に対する不安や誤解が解消されることで、リスクを理解し、適切な治療を受ける決断ができるようになったとも述べた。
遺伝子検査の受検意向向上に向けて
神奈川県横浜市では、2024年11月から遺伝子検査の費用助成が開始され、HBOCなど遺伝性のがんの早期発見に向けた支援が強化されることが発表された。このような地域での取り組みが増えることで、遺伝子検査の受検意向が高まり、早期のリスク管理が進むことが期待されている。
「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)を考える日」を通じて、HBOCに対する認知度向上と、遺伝子検査や遺伝カウンセリングの重要性が改めて確認された。
患者自身が自分の体質を理解し、適切な予防策や治療を選択することが、今後のがん医療における重要なポイントとなることが考えられる。
また、医療従事者が正しい情報を提供し、社会全体でHBOCに関する理解を深めていくことが、患者の健康を守るための大きな力になることが強調された。
今後も、こうした啓発活動が続けられることで、HBOCに対する正しい認識が広まり、患者がより適切な医療を受けられる社会が実現することが期待される。
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