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肺がんにおける患者・市民参画:KISEKI試験の成功例から考える現状と課題
[公開日] 2024.10.16[最終更新日] 2024.10.16
10月11日、肺がん医療向上委員会主催のセミナーがオンラインにて開催された。今回は肺がんにおけるPPI(Patient and Public Involvement:患者・市民参画)に焦点を当てた90分に渡る講演・ディスカッションが行われた。
冒頭に鈴木実先生(肺がん医療向上委員会 委員長)は、PPIの身近な例として、患者団体の協力を得て「肺がん診療ガイドライン」の作成に至った過程を紹介。また、患者さんが患者さんの気持ちは患者さんご本人に聞かないとわからない、と鈴木先生。医療従事者と患者さんの距離を縮めることによってよりよい医療提供を実現していくきっかけを作ることも同セミナーの目的のひとつであると、語った。
続いて長谷川一男氏(肺がん患者の会ワンステップ)が患者の立場からPPIについて講演した。
PPIとは、「研究者が研究を進める上で、患者・市民の利権を参考にすること」と定義されており、第4期がん対策基本計画では、3つの柱(がん予防、がん医療、がんとの共生)を支える基盤として、患者・市民参画の推進、いわゆるPPIが掲げられている。
臨床研究の実施にあたってPPIが重要な理由として、①専門家の過小・過大評価への調整・是正、および➁より患者によって負担の少ない実施体制の確立が期待できることを長谷川氏は強調。身近な例として、第55回肺癌学会学術集会(2014年)において初めて患者の参加を呼びかけたこと、2017年以降、長谷川氏自身が日本肺癌学会ガイドライン委員のメンバーとして活動していることなどを挙げた。そしてPPIの最たる例として、患者からの提案がきっかけとなって実施が実現したKISEKI試験について説明。同試験がこの先、患者の声を取り入れた治験が実施されていくときの道しるべになってほしい、と将来展望を語った。
PPIは答えのない問題、と長谷川氏。当事者である患者も加わって議論を重ねていくことで、時代に合った形が出来上がっていくのではないか、と語り講演を締めくくった。
続いて中川和彦先生(畿大学病院がんセンター)が医師の立場からPPIについて講演した。
中川先生が考えるPPIとして、患者の要望を臨床試験プロトコルに反映すること、患者が臨床試験に参加しやすい体制を整えること(参加施設の増加、リモートでの実施、参加条件や検体採取法の検討など)、患者のやってほしいと希望する臨床試験を実現につなげること(取り残された患者の救済、希少・小児がんの治験の実施など)の3つのポイントを挙げた。特に3点目に関して、未承認薬の新規適応を目的としたものだけでなく、患者ニーズの解決を目的とした試験の重要性を強調した。
中川先生は、患者と医師と製薬企業の関係性に着目。医師も製薬企業も“Patient first”を掲げてはいるが、経営や研究費の取得、院内方針に合わせたアイディアなどが重視される病院と、営利企業として企業戦略に合わせた臨床試験の実施が必要な製薬企業が歩み寄る中で、患者が孤立しがちな現実がある、と中川先生。そして、病院と企業が患者の声を取り入れていくことの重要性を語り、その成功性としてKISEKI試験の実施に至る過程を詳細に説明した。
その他、希少がんのひとつである中皮腫患者さんの声がきっかけとなり、治療や臨床試験などへの財政支援を目的とした中皮腫治療推進基金の運用が2021年にスタート。更に来年度からは、学術研究助成プログラムが開始される予定であり、中川先生が先月の日本石綿・中皮腫学会学術集会で公表した。
最後に、PPIの十分な実現のためには、企業や研究者が“Patient first”の理念に立ち返って患者さんの声にもっと耳を傾けることが重要だ、と中川先生。製薬企業、研究者、患者の三者の協同作業の必要性を強調し、講演を締めくくった。
講演を受けて、久山彰一先生(肺がん医療向上委員会委員/岩国医療センター 呼吸器内科)は、KISEKI試験における患者さんの希望は、医師が実臨床でもどかしさを感じていた部分でもあった、と評価。一方で、がんと診断されてからがんを理解し頭の整理ができるまでには時間がかかるため、PPIについて認識している患者さんばかりではないことを指摘した。
また、患者さんの良くなりたいという想いと医師側の患者さんを良くしたいという想いが集まってPPIがある、と久山先生。医師から提供する情報には限界があるため、患者さん同士のつながりである患者会のネットワークを広めてほしい、患者同士のアクセスを広めることで、PPIの理解度の強化につながることに期待したい、と語った。
KISEKI試験に続く患者提案型試験がなかなか出てこない現状も話題となった。製薬企業や医師主導試験の中で多くの条件が網羅されているため、開発が行き届いていない部分を探すこと自体が難しい、と長谷川氏。これに対して中川先生は、WJOGと患者会とが定期的に意見交換をする場を設けることで、KISEKI試験に続く患者提案型試験が生まれるきっかけになるかもしれない、とコメントした。
最後に長谷川氏は、PPIの存在を患者自身が知るためのイベントや学ぶ場はたくさんある、そしてPPIへの理解を深めることが自身のがん治療への前向きな気持ちにもつながるかもしれないとし、PPIの普及を課題と考えてこれからも活動していきたい、と語った。
最後に、小栗鉄也先生(肺がん医療向上委員会副委員長/名古屋市立大学地域医療教育研究センター)は、医療は医師が一方的に提供するものではなく、患者の意見が反映されるべきものであるとし、同セミナーも市民参画の一助になれば、とセミナーを閉じた。
参照元:
第47回肺がん医療向上委員会 WEBセミナー
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