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がん細胞に特徴的なマイクロRNAの構造多様性を解明:早期肺腺がんの術後再発リスクの予測が可能に

国立がん研究センターらは9月2日、がん細胞で優位に合成されるマイクロRNAの特定の構造アイソフォームに着目し、その構造を定量的に検出しスコア化することで、早期肺腺がんの術後再発リスクを予測できるバイオマーカーを同定したことを発表した。

マイクロRNAは細胞内に存在する22塩基長からなる短いRNA分子のこと。遺伝子発現を調節する働きをもっており、がん細胞ではアイソフォームの合成異常があることが報告されている。そこで今回の研究において、がんの悪性度の関連や、合成異常が起きるメカニズムの解析が実施された。

まず、外科切除検体を利用し、がんと関連するマイクロRNAとして知られるmiR-21-5pとその構造アイソフォームmiR-21-5p-C(miR-21-5p の3‘末端にC が付いた構造)を定量化し、D-scoreとして数値化(miR-21-5p+Cが優位であるほど数値が高くなる)。その結果、国立がん研究センターおよび秋田大学医学部付属病院における早期肺腺がんの手術検体を使った解析において、D-scoreの高い肺腺がん、特に早期ステージ(I-II期)では、再発リスクが極めて高いことが示された。

続いて、D-scoreがどのようながんの特徴を反映しているかを明らかにするために、網羅的な遺伝子発現の解析を実施。その結果、D-score高い症例は、細胞増殖に関連する細胞周期(DNA複製と染色体分配)の亢進があること、また転移誘発に関連する持続的な上皮間葉転換が見られること、更に免疫を回避する特性を有していることが明らかになった。すなわち、D-scoreが高い肺腺がんは、たとえ早期であっても、細胞増殖能や転移能を有する悪性度の高い腫瘍であり、再発リスクの高さの要因であることが示唆された。

最後に、D-scoreを制御している因子を特定するために、D-scoreとRNA制御に関連する遺伝子の発現量との相関を解析。その結果、癌胎児抗原と呼ばれる遺伝子のひとつであるIGF2BP3が同定された。IGF2BP3は、通常胎生期にのみ発現している遺伝子であるが、ある種のがん組織において高い発現を示す特徴があり、がん細胞の悪性形質と連携する可能性が報告されている。今回の研究により、このIGF2BP3がmiR-21-5p+Cの合成を促進することで、D-scoreの上昇につながった可能性示された。更にIGF2BP3は、その他のマイクロRNAであるmiR-425-5p、miR-454-3p、Let-7ファミリーの構造アイソフォームを制御しており、D-scoreの高い肺腺がんにおいてそれらの発現異常が認めれられることが明らかになった。

以上の結果から、D-scoreはがん細胞内で生じているマイクロRNAの構造多様性を強く反映する指標であり、早期肺腺がんの術後再発の予測を可能としていると考えられた。

今後の展望として、早期肺腺がんの再発を予測する診断法開発への応用、更には治療奏効性の予測マーカーとしての利用が期待される。また、D-scoreは微量の手術検体を用いて定量的RT-PCR法(RNAサンプルを使って遺伝子の発現量を定量化する方法のひとつ)で迅速に検出することが可能であるため、将来的には、侵襲がなく医療経済的にも有用な新しい診断法の開発につながる可能性がある。

なお同研究成果は、8月28日付でで国際学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されている。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

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