がんの病理組織から予後を予測する新しい評価指標:PD-L1タンパク質の不均一性に着目国立がん研究センター


  • [公開日]2024.04.19
  • [最終更新日]2024.04.19

国立がん研究センターは4月9日、PD-L1というタンパク質の腫瘍内不均一性と、肺がんの手術後の再発やがんによる死亡との関連を発見したことを発表した。

がんの組織は、遺伝子変異の蓄積や周囲の環境の影響から、非常に多様な細胞の集団から構成されている(=腫瘍内不均一性という)。不均一性は悪性度の強いがんの特徴のひとつであり、がんの克服に向けた重要な課題だ。

そこで同研究グループは、腫瘍内不均一性を正しく評価するために、肺がん組織に発現しているPD-L1というタンパク質に着目。手術で切除された非小細胞肺がん組織において、免疫染色(抗体を用いて目的とする特定の抗原のみを検出し、発色反応によって可視化できる手法)でPD-L1を検出し、その標本を使ってPD-L1の不均一な発現を量的に評価するモデルを作成した。

続いて、この腫瘍内不均一性の指標をspatial heterogeneity index of PD-L1(SHIP)と名付け、SHIPの値とがんの特徴を評価した。その結果、組織学的には扁平上皮がんで、また腺がんの中では特にグレードの高い(悪性度の高い)がんで、SHIPの値が高い(腫瘍内不均一性が高い)傾向が見られた。
また、SHIPが高いがんは、より高齢者に多く、がん細胞の血管への浸潤が多いことも明らかとなった。

更に、手術後の転帰との関連を解析した結果、SHIPが高い集団は、SHIPが低い集団と比較して予後が悪く、再発や死亡リスクが高いことが判明した。

同研究は、腫瘍内不均一性を病理組織標本を使って量的に評価するという新しいがんの評価方法を提示し、その臨床的な意義を明らかにした初めての研究。実用化のためにはまだまだ課題も多いが、デジタル画像を使った新しい解析ツールとしての期待は高い。従来の評価方法と併せてがん組織を多角的に評価することで、今後新しい治療戦略の検討につながる可能性も考えられる。

なお同研究結果は、2024年3月1日に米科誌学会誌「Journal of the National Cancer Institute」に掲載されている。

参照元:
国立がん研究センター 研究トピックス

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