受動喫煙が肺がんを誘発するメカニズムを解明:受動喫煙回避の科学的根拠に-国立がん研究センターら-


  • [公開日]2024.04.17
  • [最終更新日]2024.04.18

4月16日、国立がん研究センターは「受動喫煙が肺がんの遺伝子変異を誘発することを証明」と題した記者会見を開催。これまで不明であった受動喫煙が肺がんを誘発するメカニズムを初めて明らかにした。

この研究の詳細は、河野隆志先生(国立がん研究センター研究所 ゲノム生物学研究分野 分野長)から説明された。

今回の研究では、国立がん研究センター中央病院で手術を受けた非喫煙者女性 291 人(受動喫煙)、能動喫煙者女性 122 人の肺腺がんを対象に、非喫煙者女性にできた肺がんの遺伝子変異が、受動喫煙の有無によって異なるかどうかを解析した。

まず遺伝子変異数を比較した結果、受動喫煙者では、能動喫煙者ほどではないものの、非受動喫煙者よりお多くの遺伝子変異が蓄積されていた。一方で、肺がんの原因となるドライバー遺伝子のひとつEGFRの変異割合は、受動喫煙の有無で差は認められず、能動喫煙者で有意に低い傾向を示した 。また、体細胞変異を網羅的に調べることで、受動喫煙と能動喫煙とでは遺伝子変異パターンに違いがあることを明らかにした。

これらの結果から、受動喫煙は能動喫煙とは違うメカニズムで変異を誘発することが示唆された。河野先生によると、能動喫煙者のがんは肺の中枢に発生することが多い一方で、受動喫煙者のがんは肺の末梢部にできることが多いという特徴の違いがあり、メカニズムの違いを裏付けているようだ。

続いて、受動喫煙で生じる遺伝子変異の詳細を解析したところ、受動喫煙者では、➀遺伝子変異を誘発する働きを持つ特定の遺伝子(APOBEC3B)の発現が高まっており、それが原因と考えられる遺伝子変異タイプが増加していること、➁その遺伝子変異の多くは全てのがん細胞に生じているのではなく不均一に存在することが明らかになった。

以上の結果から、受動喫煙が肺の中で炎症を引き起こすことで遺伝子変異を誘発する特定の遺伝子の発現が高まり、がん組織内の不均一な遺伝子変異が蓄積されることで、がんが悪性化していく、というメカニズムが示唆された。

なお、今回の解析を女性に絞った点に関して河野先生は、受動喫煙の要因が女性の方が均一である(女性は家庭内での受動喫煙が多いのに対し、男性の受動喫煙の要因は様々である)ため、解析対象の条件をそろえるために女性に限定した、と解説。ただし、今回明らかになったメカニズムは、性差に関与するものではないため、男性にも(程度の差がある可能性はあるものの)当てはまると考えて良い、と河野先生はコメントした。

河野先生によると、不均一性の強いがんは予後が悪いことが知られている。そのため今回の結果は、肺がん予防のために受動喫煙を回避することの重要性を支持しており、日本における新たな肺がん予防法の検討が期待される。

なお、同研究結果は2月19日に米科学雑誌「Journal of Thoracic Oncology」に掲載されている。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

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