がん領域におけるリアルワールドデータの構築と利用はどこまで進んだか?:日本の現状と課題を考える第21回日本臨床腫瘍学会学術集会より


  • [公開日]2024.03.27
  • [最終更新日]2024.03.22

2月22日~24日、第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2024)が名古屋国際会議場で開催された。「会長企画シンポジウム1:Real World Data(RWD)活用に向けた基盤整備」のセッションの中で、松本繁巳先生(京都大学大学院医学研究科 リアルワールドデータ研究開発講座)が日本におけるRWD活用基盤整備の現状と課題について講演した。

松本先生は冒頭に、患者さんががん発症から亡くなるまでのペイシェントジャーニーを記録したデータがない現状を指摘し、RWDにおいて経時的な有効性安全性をゲノム情報と一緒に蓄積していくことの重要性を説明した。

一般的な臨床試験(RCT)と比較して、RWD研究は一般集団におけるエビデンスとしての有用性が高く、インフラが整備されればコストも低く、高齢者や希少集団を含めた幅広い症例に関しての長期追跡が可能である。一方で、解析方法論はまだまだ開発段階にあり、患者背景の交絡やバイアスのコントロールができず、また一定の質の担保も難しいため、RWDからのエビデンス創出は難しいとされてきた。しかし松本先生は、解析の目的別にデータを構造化しインフラを整備することで、エビデンスを作ることも可能だと強調した。

既に米国では、2018年から現在までにRWD研究に関する米国食品医薬品局(FDA)のガイダンスが複数出されてきている。また、最新の学術論文の中にもRWDに必要な条件がまとまっており、①研究目的とデータの適合性、②データの出所と品質、③解析方法とその限界に関する透明性が必要だと明記された。

これに伴い、日本でも製薬協からも、RWD研究による承認申請等のために必要な条件として、データベースの適合性、品質、エビデンスの信頼性が挙げられている。しかしながら、ゲノム情報の一元化、時系列の治療内容やその有効性・安全性・生活の質QOL)等の情報の収集は、今後の日本の大きな課題だと松本先生は指摘した。

政府の「医療DX推進本部」では、医療DX実現に向けて、①全国医療情報プラットフォームの創設(電子処方箋・電子カルテ情報共有サービス、医療等情報の二次利用など)、②電子カルテ情報の標準化等(電子カルテ情報の標準化、標準型電子カルテなど)、③診療報酬改定DXの3つについて並行して取り組んでいくとしている。最初の取り組みとして、2024年4月から、電子カルテ情報の標準化として「3文書(診療情報提供書、キー画像等を含む退院時サマリー、健康診断結果報告書)6情報(傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報、処方情報)」という共通化が実施されるという。松本先生は、これらの基盤構築の中で、がん研究に必要なデータの標準化、検査データの共通化・一元化、エフォートレス(努力を要さない)入力、ビックデータの集積・マネジメント機関が必要だと強調した。

これらの背景を受け、松本先生の所属する京都大学医学部附属病院と新医療リアルワールドデータ研究機構は、新たな研究基盤である「J-CONNECT」を2023年4月に創設。2024年4月からは日本医療研究開発機構(AMED)のプロジェクトとして、各医療機関で収集されたがん治療における高品質なRWDを活用し、医療の質の向上と学術研究を加速していくという。これにより、RWDの構築だけでなく、医療の実態把握と可視化、診断・治療の最適化、データの利活用、臨床試験や医薬品開発の効率化などが期待される。

これからヘルスデータサイエンスを臨床実装していくためには、腫瘍医や統計家、データサイエンティスト、企業、そして患者さんの声を取り入れていくことが大切だと語り講演を締めくくった。

ディスカッションの中で天野慎介氏(全国がん患者団体連合会)は、緊急で病院を受診した際に、お薬手帳や過去の検査データが手元にないと診断時に非常に困る、ということを自身の経験を交えて語り、医療DXが推進されることでこれらの個々人の様々なデータが一元化されることへの期待を示した。

また天野氏は、がん登録をはじめとするデータベースの構築が進んでいるにもかかわらず、未だに利用の部分に関しては道半ばであることを指摘。特に昨今の議論では二次利用が強調されがちであるが、患者さんに直接還元される一次利用の部分がもう少し可視化されると良いと語った。

最後にRWDの活用として、臨床試験の比較対象群としての利用に期待を示した。医療の進歩とともに現在の試験薬の効果は非常に高くなってきている背景があり、新薬への期待を持ちながら比較対象群に割り振られてしまう患者さんがいることに疑問を感じる、と天野氏。もし比較対象群にRWDを活用できる時代が来れば、患者さんの希望にもつながると話した。この点に関し、座長の武藤学先生(京都大学大学院医学研究科 腫瘍薬物治療学講座)は、データの質の担保がなくアウトカム(患者の状態など「医療の結果・成果」)のデータの欠損もあるRWDを、臨床試験の試験群と直接比較することは実際には難しい現状を指摘。国内外の例を見ても、RWDを使った承認は条件付きであることが多いと言う。そこも理解した上で、今後行政や学会が協力してRWDの構築・管理を進めていくことが重要だと語った。

関連リンク:
第21回日本臨床腫瘍学会学術集会

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