がん患者さんと家族が 安心して終末期を過ごすために:在宅医療の利点と限界を考える第21回日本臨床腫瘍学会学術集会より


  • [公開日]2024.03.26
  • [最終更新日]2024.03.19

2月22日~24日、第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2024)が名古屋国際会議場で開催された。「シンポジウ22:ここまでできる!どこまでできる?在宅緩和・終末医療を考える」のセッションの中で、病院側の立場から松本禎久先生(がん研究会有明病院 緩和治療科)が講演した。

冒頭で松本先生は、病院と在宅の違いについての比較を述べた。病院の場合には、使える薬やできる検査が豊富であり、緊急対応も可能という特徴があるが、一方の在宅であっても必要な薬は概ね使えること、できる検査は限られているものの腹水穿刺などもできるようになってきていること、また緊急時にも事前の準備や電話等での相談で対応できることなどを説明した。

そしてなによりの違いは、病院が「病気と向き合う場所」であるのに対し、自宅は「生活の場所」であること、自由度が高くプライバシーが保たれることも自宅の特徴であり、これらの違いを考慮に入れて患者さんやご家族がどう過ごしていきたいかを話し合うことが重要だと述べた。

在宅医療の充実には、病院と在宅の連携が重要だと松本先生。そのためには、在宅スタッフが慣れていない医療行為を必要とする際には、退院前カンファレンス、手順や注意事項に関する文書に加え、SNSなどを使ったタイムリーな情報共有と必要時の入院対応の担保が必要である、と自身の経験を交えて説明した。

また、血液悪性腫瘍を例に挙げ、緩和ケア医と血液内科医で輸血実施の基準が異なることを指摘。担当する科によってできる治療が異なることは解決すべき課題であり、同じ基準で治療・ケアをしていくためにがん治療と緩和ケアの統合が求められていることを強調した。そして、血液内科医、緩和ケア医、在宅医の三者間で治療方針を共通化し、患者さんへの説明内容を統一する、といった自身の取り組みを紹介した。

医療の継続のためには、必ずしもできることを全てやることが良いわけではないことに注意が必要だと松本先生は言う。特に病院側の医師の説明や治療方針は、患者さんやご家族に強く影響するため、その患者さんにとって本当に必要な医療行為か、を常に意識すべきだと語った。

また、病院と在宅ケアがつながるために大切なことは、在宅医もがんの専門知識を学び、病院側も在宅ということを選択肢に入れながら役割分担をしていくこと、顔が見える関係性で密にコミュニケーションをとっていくことである、と述べた。

がん患者さんから“こんなに早く悪くなるとは思わなかった”という言葉をよく聞く、と松本先生。がんはいつ全身状態が急激に悪くなる時期が来るか分からないということを最初から念頭に入れ、どのように過ごしていきたいかを事前に考えることが大切になってくる。いつか振り返った時に、“早すぎた判断”と“遅すぎた判断”のどちらが良いかということも患者さんと話をするそうだ。

日本からの前向きコホート研究(J-Proval)の二次解析の中 では、在宅と病院のどちらで療養しても予後に大きな違いはないという結果がでており、2つの前向きコホート研究(EASED、Come Home )の二次解析の中でも、同様の傾向の結果が出ている。また、がん患者さんが人生の最終段階で過ごした場所の推移を見ると、自宅で過ごす割合がここ10年で増加傾向にある(自宅の割合:2000年で6.0%、2010年で7.8%、2020年で16.9%)。これについて松本先生は、コロナ禍の影響も加味しつつ、がん患者さんが望む場所で過ごせる体制が整いつつあるのではないか、と説明した。

松本先生は、末期の症状を見て“今の状況では家に帰ることは難しい”、のひとことで片づけるのではなく、在宅医療のことを含めた正しい情報を伝えて患者さんやご家族の意向を聞くこと、他職種・他部門と協働していくこと、もしものときの外来や入院対応の担保をすること、などが病院側の医師のできることだと語り、講演を締めくくった。

ディスカッションの中では、在宅と病院との線引きについて話題となった。まずは医療技術の観点として、多くの在宅医療を提供する施設でできる医療の質や種類を均一にすることは難しい。そのため、担当の在宅医とのコミュニケーションの中で、在宅では難しいと判断された部分は病院側が受け入れるというという連携が大切になってくるようだ。

一方で、家族の介護力も重要な判断基準であり、最初に家族との間で限界設定を行うことも重要だと言う(例えば、一人でトイレに行かれなくなったら入院に切り替えるなど)。そしていざその時がきたらまた家族も含めて繰り返し話し合いをする、これこそがまさに理想的なACP(Advance Care Planning)と言えそうだ。

関連リンク:
第21回日本臨床腫瘍学会学術集会

×

この記事に利益相反はありません。

会員登録 ログイン