再発の恐怖に対する精神療法介入の有用性は?:スマートフォンと分散型臨床試験の基盤を使った試験から見えてきたこと第21回日本臨床腫瘍学会学術集会より


  • [公開日]2024.03.14
  • [最終更新日]2024.03.13

2月22日~24日、第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2024)が名古屋国際会議場で開催された。同学術集会の「シンポジウム8:サイコオンコロジーUpdate~エビデンスとプラクティス~」のセッションの中で、「再発恐怖をスマートフォン精神療法で緩和する-分散型臨床試験基盤を用いた多施設ランダム化比較試験」というタイトルで明智龍男先生(名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野)が発表した。

冒頭に明智先生は、乳がんに代表される多くの患者さんの再発への不安やそれに伴う治療やケアの必要性について言及。一方で、日本では専門的なケアができる精神科医や公認心理士は限られており、医療の現場では「仕方がない」と捉えられがちなアンメットニーズの高い部分であることを指摘した。

この問題を解決すべく、今回明智先生を中心にスマートフォンを用いた精神療法を開発し、その有用性を検証する試験(I-SUPPORT 1703)を実施した。スマートフォンによる精神療法の詳細は、ひとつは「解決アプリ」による問題解決療法というもので、問題点を小分けして達成可能な目標を設定し、解決策を考えて実施した後、気分の変化を振り返るという流れをサポートする。もうひとつは「元気アプリ」による行動活性化療法というもので、楽しいと感じる活動や新しい活動を取り入れ、行動の結果を振り返ることをサポートするというものだ。

また、同試験の特徴として、対象者や研究者の負担軽減をはかるために、研究説明、インフォームド・コンセント(IC)取得、アウトカム評価を全て遠隔にて行う分散型臨床試験のシステムが採用された点が挙げられた。

対象者である50歳未満の術後1年以上経過した無再発の乳がん患者さんをランダム化し、介入群には8週間のスマートフォンによる問題解決・行動活性化療法を実施。主要評価項目は介入後8週時点のConcerns about Cancer Recurrence Scale 日本語版で評価した再発恐怖で、その他、副次評価項目として、抑うつ、不安、がん患者の各種アンメットニーズ、外傷後成長等が設定された。介入群については、効果継続の有無を検討するため24週後時点においても評価された。

最終的に447名の患者さんが参加し、その半数以上がフルタイムで仕事をしている患者さんであったことを明智先生は強調。社会生活を送りながら治療や治験を受けられる可能性を示しているとコメントした。

結果は、介入後4週時点から有意に再発恐怖の改善が見られ、24週の評価まで効果は継続した。明智先生によると、これはうつ病に対する抗うつ薬有効性と同程度の効果だと言う。また副次評価項目である抑うつ、心理的ニーズも有意に改善し、その効果は24 週時点でも維持されていた。このことから、スマートフォンによる精神療法は、再発恐怖による苦痛、更には抑うつや心理的ニーズに対して有効な手段であることが示された。

またこの試験は、8週後、24週後におけるデータの完遂率が各々98%、95%以上であるなど、欠損値が極めて少ないという点が評価に値するという。これは、患者さん・医療者双方が負担なく実施できる試験であったことを示唆しており、将来有望な研究基盤である、と明智先生は将来展望語った。

関連リンク:
第21回日本臨床腫瘍学会学術集会

×

この記事に利益相反はありません。

会員登録 ログイン