遺伝子パネル検査データを使った大規模解析の結果:日本人におけるがん種横断的な遺伝子異常の全体像が明らかに-国立がん研究センターら-


  • [公開日]2024.03.05
  • [最終更新日]2024.03.06

2月29日、国立がん研究センターは「日本人のがんゲノム異常の全体像を解明」と題した記者会見を開催。がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に蓄積された様々ながん種由来のがん遺伝子パネル検査データの解析結果を発表した。

研究の詳細は堀江沙良氏(国立がん研究センター研究所 分子腫瘍学分野)から説明された。

今回の解析対象は、C-CAT に登録された48,627 症例(2019 年6 月から2023 年8 月の間に日本において保険診療でがん遺伝子パネル検査を実施した症例)のがん遺伝子パネル検査データ。大腸がん・膵臓がんなどが多いことに加え、日本人に多い胆道がん、胃がん、子宮頸がんも多く含まれている点が特徴的だと堀江氏は説明した。

症例数が多い26種類のがん種における解析の結果、48,627 症例のうち44,349 症例(91.2%)に少なくとも1 つのドライバー遺伝子変異があり、合計で151,875 のドライバー遺伝子変異が見つかった。C-CAT全体で最も多いドライバー遺伝子変異はTP53(55.9%)であり、次いでKRAS(24.8%)、またがん種毎に特徴的な遺伝子変異も同定された。発がん経路毎に見ると、DNA損傷・修復経路にかかわる遺伝子変異(63.3%)が多く認められた。

薬剤との結びつきの観点では、治療薬の効果予測可能なゲノム異常(エビデンスレベル1-3A)がある症例は全体の15.3%であり(ただし、実際に治療を実施した“薬剤到達率”ではないことには注意が必要)、がん種毎に見ると甲状腺がんが最も割合が高く(85.2%)、次いで浸潤性乳がん、肺腺がんの順で、治療薬の標的となるゲノム異常が見つかりやすかった。

続いて、日本人と白人の遺伝子変異比較をした結果、複数のがん種でTP53遺伝子変異頻度が高いという日本人の特徴を明らかにした。また、治療標的となる遺伝子異常の割合は、全体で見ると日本人よりも白人の方が多い結果であり、これは日本人において治療標的となる遺伝子異常が少ないすい臓がんや胆道がんの割合が多いことを反映している、と堀江氏。また、世界的に多いがん種のグローバルな薬剤開発が進みやすい一方で、日本人にのみ特徴的ながんの薬剤開発がなかなか進まず、さらなる開発の促進が必要だとした。

最後に、ドライバー遺伝子変異とがん種の組み合わせの共存排他関係について解析した。同じ発がん経路に関与する遺伝子同士は排他関係が多い傾向が確認されたが、エピゲノム制御因子に分類される発がん経路にかかわる遺伝子変異同士が有意に共存していること、また、エピゲノム制御因子における変異の集積が、がんの生存に有利に働くことを今回初めて明らかにした。

今回の結果を受けて堀江氏は、日本のがんゲノム医療、創薬や臨床試験の基盤となる重要な研究であり、日本人がん患者さんに向けた診断と治療戦略の最適化が必要であることを示している、と結論を述べた。

また、従来の解析は欧米人を対象とした解析が中心であったため、今回の解析結果は、日本人においてがん種横断的にドライバー遺伝子異常の全体像を解明した初めての試みであり、アジア最大規模のがんゲノム解析であるとのこと。今後も日本人に特徴的ながん遺伝子プロファイルや、それが予後・治療効果に与える影響、さらに新たな発がん機構の解明を目指す、と将来展望を語った。

なお、同研究結果は1月26日に米科学雑誌「Cancer Discovery」に掲載されている。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

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