肺がん治療の最近の変化をキャッチアップUpdate in Thoracic oncology 2024


  • [公開日]2024.01.26
  • [最終更新日]2024.01.25

1月20日、日本肺癌学会 教育研修委員会企画の『Update in Thoracic Oncology』が開催された。
同セミナーは、診療におけるClinical Questionと将来を踏まえ、最新情報を網羅した内容となっており、主に医師、メディカルスタッフおよび医療関係者を対象に年に1度開催されている。

今回はその中から、近い将来実臨床に影響がありそうな部分に関して記載した。

2023年の薬剤開発からピックアップ

進行期を対象とした免疫チェックポイント阻害剤(ICI)においては、様々な併用レジメンの開発が主だった方向性である。
まず、ICI同士の組み合わせとして、既に承認されている抗PD-(L)1抗体や抗CTLA-4抗体と、TIGIT・LAG-3・Tim-3に対する新規の抗体薬との併用が挙げられる。特に抗TIGIT抗体であるTiragolumabと抗PD-L1抗体アテゾリズマブ(製品名:テセントリク)の併用に関しては、複数の第3相試験が実施中である。既に進展型小細胞がんを対象としたSKYSCRAPER-02試験では、OFS/OSともに改善が認められなかったという報告が出ているが、非小細胞肺がん(NSCLC)に関しては今後結果が待たれるところだ。
また、その他の免疫抑制分子として、CD73(がん細胞や制御性T細胞に発現していて、抗腫瘍効果を持つ免疫細胞の増殖などを抑制するアデノシンの生成を促進する分子)やNKG2A(抗腫瘍効果を持つ免疫細胞に発現していて、がん細胞の免疫応答からの回避に重要な分子)も薬剤開発のターゲットである。現在第3相PACIFIC-9試験において、抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)とCD73阻害剤であるOleclumab、あるいはNKG2A阻害剤であるMonalizumabとの併用の効果が検討されている。

抗体薬物複合体ADC)として注目されたのは、抗HER3 ADCであるパトリツマブ デルクステカンであり、既治療のEGFR変異陽性進行NSCLCを対象として第2相HERTHENA-Lung01試験が進行中だ。また、抗TROP2 ADCであるダトポタマブ デルクステカンに関しては、既治療のドライバー変異陰性進行NSCLCを対象として第3相TROPION-Lung01試験が進行中だ。

またもうひとつ重要な薬剤として、EGFRとMETを標的とした二重特異性抗体であるアミバンタマブが挙げられる。同剤に関しては、EGFR変異陽性NSCLCの初回治療を対象にMARIPOSA試験、二次治療以降を対象にMARIPOSA-2試験、またEGFRエクソン20挿入変異陽性NSCLCの初回治療を対象にPAPILLON試験が進行中であり、いずれの試験も昨年の中間解析において良好な成績を示している。ただし、静脈投与ではInfusion reactionが頻発する点が懸念されている。現在PALOMA試験の中で皮下注射での投与が検討されており、Infusion reactionの大幅に軽減に加え、投与時間の短縮にもつながることが期待される。

周術期の開発に関しては、既に承認となった術前または術後療法としてのICIに加え、術前療法と術後療法の両方でICIを使うことを検討した第3相試験が昨年複数報告された(AEGEAN試験、KEYNOTE-671試験、ChechMate-77T試験)。近い将来実臨床でも使えるようになることが予想されるため、周術期ICIのレジメンの使い分けが今後議論になりそうだ。
また、ドライバー変異陽性症例に関しては、EGFR変異陽性NSCLCに対して既に承認となっている術後療法としてのオシメルチニブ(製品名:タグリッソ)に加え、昨年はALK陽性NSCLCに対する術後療法としてのALK阻害剤アレクチニブ有効性を示した(ALINA試験)。

病期の定義が一部改変

がんの病期は、がんの大きさ(T)とリンパ節への転移状況(N)と他臓器への転移状況(M)で評価されるTNM分類をもとに判断される。このTNM分類が近々改訂されるにあたり(第9版)、病期の決定も変わるようだ。詳細は割愛するが、リンパ節転移と肺がん以外への転移の評価が細分化されたことにより、これまでIIIA期とされてきた症例の一部がIIBに、またこれまでIIB期とされてきた症例の一部がIIA期に分類されるようになる。
まずは新規分類に関する論文が順次発表され、その後に肺癌学会から新規約が出版予定とのことだ。

粒子線治療(陽子線・重粒子線)が一部保険適用に?

放射線療法での最近の動きとしては、粒子線治療が取り上げられた。2024年1月11日に開催された先進医療会議において、これまで先進医療として実施されてきた肺がんにおける粒子線治療の一部(I-IIA期対象)が、保険診療となることが検討されたとのこと。今後審議が行われ、十分な科学的根拠が認められれば、保険診療となる見込みである。
粒子線は、狙ったがん病変部位で最大の効果を発揮することができ、透過せずにそこで止まるため、X線と比較して周囲の臓器へのダメージを低く抑えることができる。そのため通常のX線治療が困難なハイリスク症例(高齢、肺臓炎合併、低肺機能など)においても、粒子線を使うことにより、X線同様の根治照射や化学療法との併用が可能になる。
ただし、2024年1月時点で、日本において粒子線治療治療が可能な施設は、27施設であることには注意が必要だ。

もうひとつ放射線治療として期待されているのが、ICIとの併用である。なぜなら放射線による免疫系が活性化することが知られているからだ。一方で、放射線とICIが合わさることで、肺臓炎のリスクも増すという懸念がある。そのため、実臨床への導入に向けて、併用するタイミングや、使う放射線の種類などをこれから検討していく段階である。

参照元:
日本肺癌学会教育研修委員会企画 Update in Thoracic oncology 2024

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