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がん治療と就労支援の実態:緩和的放射線療法を中心に

[公開日] 2024.01.11[最終更新日] 2024.10.04

目次

11月30日(木)~12月2日(土)、日本放射線腫瘍学会第36回学術大会がパシフィコ横浜ノースにて開催された。 セッション「緩和的放射線治療の普及啓発」の中で、『緩和的放射線治療中の患者の収入・雇用状況と「治療と仕事の両立支援」」というタイトルで、白土博樹先生(北海道大学医学研究院 医理工学グローバルセンター)が発表した。 なお、今回の発表の詳細は、2023年3月付けで科学雑誌「Advances in Radiation Oncology」にも掲載されている。 白土先生は約30年に渡り高精度放射線治療の研究を追及していく中で、患者さんがどこに価値を見出しているかという視点を失いかけている自分に気づいたと言う。 そこで、忘れがちであった患者さんの価値観を研究に取り入れるために緩和的放射線療法にフォーカス、現在は生活の質(QOL)や経済毒性などに関しても精力的に研究を進めている。

緩和的放射線療法中の就労の実態と支援の重要性

今回発表された研究は、骨転移に緩和的放射線治療を受けている患者さんの治療開始時とその後の収入・雇用状態を把握することを目的とした、収入と雇用の現状に関する前向き調査の結果である。333例が期間中に放射線治療科に受診し、そのうち224例が同研究に登録可能であった。 治療開始時、108例はがんに無関係の理由で既に退職しており、43例はがん関連の理由で退職、31例は休職、治療開始時の業務従事者は40例(30例は収入に変化なし、10例は10%以上の収入減)であった。また2か月後には35例が、6か月後には24例が業務を継続していた。 骨転移を有する患者さんの業務継続割合は、治療開始時から一貫して高くはないが、治療母数自体が大きいため実数は無視できない数である、と白土先生。また休職や無職の状態から復職や就職をした患者さんが2ヵ月後と6ヵ月後にそれぞれ4人、放射線治療後に収入が完全に戻った患者さんも2人いたことから、休職中または治療開始時に無職である患者さんへの支援の意義についても指摘した。 就労群の特徴としては、若年、良好な全身状態、歩行可能、低い痛みスコアなどがあがり、放射線腫瘍医は、患者さんが治療開始時に就労中あるいは休業中で歩行可能・全身状態良好であれば、積極的に両立支援をすべきである、と白土先生は説明した。また、放射線療法による患者さんの就労継続や復職支援の有益性については、今後更に前向き研究で検討すべきである、として講演を締めくくった。

治療と仕事の両立の実現に向け医師に求められること

就労支援における医師の関わり方に関しては、2つの方向性に期待している、と白土先生は言う。 まず1つ目は、医学部のコアカリキュラムに「仕事と治療の両立支援」が加わったことで、若手医師が経済毒性や必要な支援について触れる機会が出てきていること。もう1つは、60代前後の医師は十分に経験を積み、患者さんの年代にも近いことから、患者さんの悩みを自分の問題として捉えられるようになってくることであるという。 これらの流れに期待しつつ、どの世代の医師においても、少しの知識やプラス5分のコミュニケーションの工夫で、できる支援の幅は大きく変わってくる、と白土先生は強調した。 特に機能・形態温存という特徴をもつ放射線治療は、仕事をしながら受けられる点がメリットのひとつ。放射線治療医の意識が重要であることはもちろんであるが、更に海外のように時間外でも治療が受けられるような体制の工夫により、本来の放射線治療の良さを生かした支援の可能性が広がっていく、と白土先生は期待を述べた。

経済的負担の軽減に必要な3つのアプローチ

治療薬の進歩や治療法の高度化により、治療にかかる費用は必然的に高くなる傾向にある。 その中で経済毒性を軽減していくためには、➀患者と向き合う医師、➁医療スタッフやソーシャルワーカー、そして➂国(学会や企業も含む)という3段階で役割を考え、スピード感、決断力、責任の所在を整備することが必要である、と白土先生。まずは上述の通り医師が目の前にいる個々の患者さんの状況に合わせて対応していくこと、次にその周りにいる医療スタッフやソーシャルワーカーが制度や法律を理解し患者さんの相談役になること、そして国全体としては、高価な医療が良い治療という考えを根本的に改め、コストを抑えていかに効果を高めていくかということに価値を見出し、研究を進めていくことが重要だ。 コストがかかる開発や治療が必要な場面はもちろんあるが、効率とのバランス、そして治療の無駄を無くすために個々の患者さんに対する治療介入の必要性を見極めていくことが大切だ、と白土先生は語った。

患者さんの価値観に合った治療こそが最先端の治療

最後に、これまでの医療は費用対効果で語られてきたが、QOL×生存期間で評価できる時代は終わった、と白土先生。QOLスコアだけでは評価できない“value”を重視し治療の必要性を判断していく方針は、既に国際的なコンセンサスになりつつあるようだ。 患者さんの経済的な不安や日常生活で大切にしている価値観を議論していくことこそが最先端の治療であり、医師が参入していくべきひとつのScienceの分野として確立されるべきである。そして患者さんの「ありがとうございます」や「よろしくお願いします」の言葉の裏にある想いを短時間で引き出すために、医師はどんなコミュニケーションをすべきかということが今後のひとつの研究課題だ、と将来展望を語った。
ニュース 仕事(就労) 経済毒性

浅野理沙

東京大学薬学部→東京大学大学院薬学系研究科(修士)→京都大学大学院医学研究科(博士)→ポスドクを経て、製薬企業のメディカルに転職。2022年7月からオンコロに参加。医科学博士。オンコロジーをメインに、取材・コンテンツ作成を担当。

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