12月15日、肺がん医療向上委員会主催のセミナーがオンラインにて開催された。今回はAYA世代のがんに焦点を当て、講演・ディスカッションが行われた。
はじめに葉清隆先生(国立がん研究センター東病院 呼吸器内科)が、医師の立場として講演を行った。
AYA世代肺がんの特徴に関する過去の報告では、発見時に既に進行している傾向が共通して見られる。喫煙との関連は明確ではなく、EGFRエクソン19欠損やALK・ROS1の遺伝子異常が多いという報告もあるが、一貫した特徴は同定されていない。
また葉先生によると、国立がん研究センター東病院におけるデータでは、AYA世代肺がんの治療成績は一般的な肺がんと同等であり、進行期であっても年単位の生存が望める症例が一定数いるとのこと。しかしながらAYA世代の肺がん患者さんはAYA世代がん全体の約2%、全年代の肺がん患者さんの約0.4%であるため、非常に希少だ。
そのため、AYA世代の肺がんの特徴や診療実態については十分に把握されておらず、今後大規模なコホート研究により、治療と支援体制を模索していく必要ある、と葉先生は述べた。
また、AYA世代のがん患者さんの悩みは自身の将来のことが大きいため、医師が重視しがちな目先のがん治療自体のことだけでなく、経済的な不安や妊孕性などの悩みなど、生活面での相談にも寄り添っていくことが重要である、と葉先生。更に、AYA世代といっても年齢の幅が大きいため、自立度合いや家庭環境、就学・就労・経済状況、ライフプランに応じた支援の提供が必要、と葉先生は語った。
また葉先生は質疑の中で、AYA世代がんでは肺がんの症例数が少ないため、肺がん専門医とAYA世代患者さんのコミュニケーションはまだまだ不十分であることも指摘した。
続いて患者さんの立場から、清水公一氏(社会保険労務士事務所Cancer Work-Life Balance)が講演をした。
35歳の時に肺がんを発症したサバイバーである清水氏は、肺がんは高齢者に多いがん種であるため、自身と周りの患者さんとの人生の価値観などにギャップがあり、自身のロールモデルとなるような患者さんがいなかったため、悩みや感情が複雑で孤独感があったと言う。
また、清水氏は当時の自分を振り返り、人間関係のすれ違いに悩んだ経験を語った。特に人生の先を見据えている同年代の友人と、今を生きることが精一杯の自分の差を感じて劣等感に陥ることや、感情がコントロールができず疎外感と戦っていたこと、前向きに頑張ろうとしても再発や体調の波に気持ちがついていかないなど、葛藤があったことに触れた。
そして、この心理的にダークな部分から脱出するためには、究極的には“がんを治すこと“以外に方法はないと話す一方で、脱出はできなくてもその中でもがき続けるしかない、自分の居場所を見つけていくことが大切だ、と強調した。その例として、患者会に行けば同年代の患者さんと会える機会があり、ここにいてもいいんだという前向きな気持ちになれた、と患者会の存在の大きさを語った。
清水氏は再発や転移を繰り返しながらも、最後に自分に合う薬剤と出会い九死に一生を得たがん経験者であり、今はがん経験を生かして自分らしく生きることを目指して活動しているサバイバーだ。しかし、もしあのとき治らなかったら、ダークな気持ちを抱え劣等感の塊のまま人生が終わっていたと思う、と言う。年齢別による悩みの違いはもちろんあるが、今受けている治療で治る見込みがあるのかどうかによって患者さんの気持ちには雲泥の差があり、治療や人生に対する想いが左右されることを強調した。
また清水氏はディスカッションの中で、社労士という立場から、適切な補償を受けるためにもなるべく仕事をすぐに辞めることはしないでほしい、患者さん自ら手を挙げないと受けられない保証が多いため、知識をつけておくことが大切であるとコメントした。
その他、病院や主治医の考えによって遺伝子検査の実施状況が違うことなど、がん治療で一般的に課題とされていることは、AYA世代がんにも当てはまり、まだまだ議論すべき点は多い。
髙濱隆幸先生(近畿大学 腫瘍内科)は、AYAがんの専門家は少く、患者だけでなく担当医も1人で悩むケースが多いため、科や病院の枠を超えて情報共有をしていくことが重要だとコメントした。
【プログラム】
<Opening Remarks>
司会:鈴木実(肺がん医療向上委員会委員長/熊本大学呼吸器外科)
<講演①>「AYA世代の肺がん(医療者の立場から)」
演者:葉 清隆(国立がん研究センター東病院 呼吸器内科)
<講演②>「AYA世代の肺がん(患者の立場から)」
演者:清水 公一(社会保険労務士事務所Cancer Work-Life Balance)
<ディスカッション>
ファシリテーター:柳澤 昭浩(日本肺癌学会Chief Marketing Advisor)
パネリスト :葉 清隆(国立がん研究センター東病院 呼吸器内科)
髙濱 隆幸(近畿大学 腫瘍内科)
清水 公一(社会保険労務士事務所Cancer Work-LifeBalance)
<Closing Remarks>
小栗鉄也(肺がん医療向上委員会副委員長/名古屋市立大学地域医療教育研究センター)
■参考
肺がん医療向上委員会 第44回肺がん医療向上委員会 WEBセミナー