今見直されるべきリアルワールドデータの重要性:適切な活用に向けて第64回日本肺癌学会学術集会より


  • [公開日]2023.11.21
  • [最終更新日]2023.11.20

11月2日~4日、第64回日本肺癌学会学術集会が幕張メッセで行われた。同学術集会のセッション「臨床試験結果の解釈を巡る諸問題ー診療ガイドラインを臨床的・統計的観点から切り込む」の中で、今後のリアルワールドデータ(RWD)の活用に関して、「RWD(安全性有効性)の利用可能性」と題して阪本智宏先生(鳥取大学医学部附属病院呼吸器内科・膠原病内科)が発表した。

一般的に診療ガイドラインにおいては「良質なエビデンス」の収集が求められることから、自然とRCT(ランダム化比較試験)が高く評価され、実臨床のデータを集めたRWDの優先度は下がる傾向にある。

しかしながら、RCTにも問題点はある、と坂本先生。例えば、治験実施にコストがかかること、症例数が集まりにくい希少疾患での実施が難しいこと、厳しい症例選択基準が設定されているために実臨床との乖離があることなどである。

実際に、RCTを根拠に承認された薬剤の中には、対象群の設定やクロスオーバーの実施が適切でないものも存在してること、また治験登録の適格基準を満たす症例は全体集団のごく一部であることなど、課題を指摘する論文報告もあるという。

つまり、実臨床における課題や疑問をRCTだけで解決することは難しく、そこにRWDの必要性がある、と坂本先生は強調した。

坂本先生によると、RWDのエビデンス評価が低い理由は、データの質の担保が難しいこと(データ収集法が確立されていないことやデータの欠損が避けられないこと)、交絡因子の影響を受けること、サンプルサイズの設定根拠があいまいになりがちであることなどがある。

そこで、これらの問題を解決することで、RWDのエビデンスレベルを上げるための取り組みがあるようだ。例えば、報告の質を改善するために報告ガイドライン(STROBE 声明など)を設けることや、バイアスを最小化するためのマッチングの手法が考えられている。またデータ収集を自動化することで多くの症例数の組み入れを実現するために、海外ではFLATIRON社が、電子カルテから患者背景や診断情報、検査値、治療、転帰などのデータを抜き出す仕組みを作っている。国内でも、西日本がん研究機構(WJOG)とPRIME-R社がビックデータの構築に取り組んでおり、REAL-WIND試験として進行中であるようだ。

坂本先生は、エビデンスのレベル付けは時代と共に変化する、と話す。そして、RWDが有名な科学雑誌に掲載されるようになってきていること、またRWDの結果をもとに米国食品医薬品局(FDA)が承認を認めた薬剤があることなどを例に挙げ、RWDの位置づけも変化していることを指摘した。

ただ一方で、日本のガイドラインではなかなかRWDの利用に関する議論が進まない現状がある。坂本先生は、RCT実施が難しい“special population(例えば特に高齢の患者さんやPS不良の患者さんなど)”のデータ構築にこそRWDの役割は重要であり、適切な情報を見極めるために今後更に議論が必要であるとコメントした。

最後に坂本先生は、RWDの改善ではなく、逆にRCTをもう少し実臨床に近づける試みを紹介した。それはPragmatic clinical trialと呼ばれる手法であり、試験デザインや組み入れ基準を柔軟にすることで、試験の窓口を広くするイメージだ。たとえば、Lung-MAP S1800Aという試験ではこの手法が使われており、結果が待たれるところである。

坂本先生は、これからも新しい取り組みに伴ってRWDの利用可能性も広がることが期待できるため、日本の診療ガイドラインにおけるRWD活用の議論も深めていきたいとし、講演を締めくくった。

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