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がん治療中の就労支援はどこまで進んだか?:患者・医師アンケート2023の結果から

11月2日~4日、第64回日本肺癌学会学術集会が幕張メッセで行われた。同学術集会のセッション「なぜいま就労両立支援が重要なのか?~第4期がん対策推進基本計画とアフターコロナを踏まえて~」の中で、「患者・医師アンケート2023から見えてくる就労両立支援のいま」について池田慧先生(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科)が発表した。

池田先生は冒頭、ここ数年で肺がんの長期生存時代が一気に加速したことに言及。それに伴い長く治療と付き合っていく必要性も増し、就労支援の重要性が高まってきている、と説明した。

2023年3月に閣議決定された第4期がん対策基本推進計画の中で、就労支援は1つの重要な柱であると池田先生。そこで2019年に引き続き2023年も「肺がん治療と就労の両立に関するアンケート」を実施し、本セッションでデータが報告された。

アンケートの目的は、両立支援の現状と課題、また4年間の変化を把握すること。仕事と治療の両立経験のある患者さん178人と肺癌学会会員医師(呼吸器内科・外科が8割)491人を対象に実施された。

患者さんの就労状況は、診断時に仕事についていた割合が93.8%、治療後に仕事を始めた割合が6.2%、正社員の割合は53.4%であった。

結果は2019年の結果と対比する形で示された。
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・主治医として患者さんの就労についてどう考えているか?
 →「就労の希望があればできる限りサポートしたい」と回答した医師の割合が58%(2019年)から74%(2023年)に増加した。
・がん相談支援センターには相談できる就労支援の専門家がいることを知っているか?
 →「知っており利用したことがある」と回答した患者さんの割合が15%から27%に増加。また「知っており利用を勧めたことがある」と回答した医師も、40%から51%まで増加が見られた。
・傷病手当金について知っているか?
 →「知っており利用したことがある」と回答した患者さんの割合が30%から45%に増加、「知らない」との回答が36%から18%まで減少し、また医師側に関しても同様の傾向が見られた。
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ここまでの結果に関して池田先生は、世の中のニーズに合わせて医師の認識も変化してきており、一定の成果は出てきている、と前向きな解釈を示した。

一方で、限界を感じる部分もあると池田先生はコメントし、結果の報告を続けた。
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・主治医が就労について把握していると思うか?
 →「よく把握していると思う」と回答した患者さんの割合が24%から15%に減少した。
・担当患者の就労状況を把握しているか?
 →「全ての患者さんについて把握している」と回答した医師が39%から23%に減少した。
・治療開始前に就労の状況や希望を話し合ったか?
 →「話し合ってない」との回答割合が2019年と全く変わらず、医療者側からの声がけの割合は増えていない結果であった。
・仕事と治療の両立で問題となることは?
 →最上位は治療や副作用に伴う身体的不調、続いて職場理解、通院の時間確保などが挙がり、2019年と傾向は変わっていない。
・医師に最も期待することは?
 →就労に関して相談する機会の増加、有害事象の少ない治療選択肢、通院回数の少ない治療選択の提示、の3つが上位となり、2019年と傾向は変わっていない。
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以上の結果を受けて池田先生は、臨床医の意識は依然不十分である、とし、知識とモチベーションの向上にはより多くの教育機会が必要である、と指摘した。

ただし、病院内で活動を始めようとすると、活動を引っ張る啓発者の負担が大きくなりがちだとのこと。チームとしてディスカッションできるような場を設けながら進めていくこと、また個々の単発的な活動に留まらず、学会全体として疾患横断的に取り組むなど継続した活動が必要だと提案し、講演を締めくくった。

質疑の中では、忙しい医師の時間と人材には限界があり、今後働き方改革が進むことで病院内での活動だけでは不十分になる懸念があること、結果の改善にはもう少し別の視点からの活動の工夫が必要であることなどが問題となった。これに対して池田先生は、院外の専門家も一緒に活動していくなど、別のアプローチで活動を広げる工夫も考えていく必要がある、と回答した。

また、特に高齢の患者さんが多い肺がんにおいては、患者ご本人だけでなく、通院や生活を支える家族側の仕事の継続にも影響する可能性があることが指摘された。今後、患者さんのご家族の就労まで広げたアンケート実施や支援を考えていくことなど、解決すべき就労支援の課題はまだまだ多い。

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