患者と医師の協働意思決定を支えるガイドライン作成を目指して:HBOCの例から学ぶ第61回日本癌治療学会学術集会より


  • [公開日]2023.10.26
  • [最終更新日]2023.10.24

9月19日~21日、第61回日本癌治療学会学術集会がパシフィコ横浜で行われた。同学術集会のセッション「一気通貫と相乗効果のHBOC診療」の中で、「️HBOC診療ガイドラインの役割―充実した協働意思決定のためのツールを目指して―」というタイトルで北野敦子氏(聖路加国際病院・腫瘍内科)が発表した。

発表の冒頭に北野氏は診療ガイドラインに関して、エビデンス集、教科書的な参考資料、学会の方針提示文書としての役割だけではなく、前提として「良い医療の実践を支えるもの」である必要性を強調。そして良い医療とは、患者医療者間で十分な情報共有と対話が行われ、質の高いエビデンスに基づき、患者の希望を尊重し、医師と患者の双方が納得できる意思決定が、どの医療機関でも一定以上の質を担保して実施されること、説明した。

多くの診療ガイドラインはMinds診療ガイドライン作成マニュアルに則って作成されおり、診療ガイドラインは協働意思決定を支援する文書であるべきだということが前提とされている。協働意思決定においては、医師からの十分な情報提供と複数の治療選択肢についての説明をもとに、治療方針の最終決定は患者自らが行うとされているが、そのためには、情報を鵜呑みにせずに医療の不確実性も含めて受け入れる科学リテラシーが患者側にも求められる。そしてそれを実現するためのツールこそが診療ガイドラインである、と北野氏は述べた。

遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン」は、2021年7月に刊行されている。その特徴として、様々な視点からのアウトカム(結果、成果の意)設定、他職種の参画、作成プロセルの透明化(推奨作成チームとシステマティックレビューチームの独立)、客観的視点により評価したエビデンスの提示、複数の基準から判断した推奨作成(evidence to decisionフレームワークの使用)などが挙げられる。北野氏によると、HBOCは他のがん種と比較しても関連するエビデンスが少なく、当事者や血縁者の想いが多様であることから、診療ガイドラインの役割は大きい。

また、ガイドライン作成においては患者市民参画(PPI)という点も意識されているようだ。北野氏は、ガイドライン作成段階における患者市民参画のメリットとして、患者と医師の協働意思決定が可能になり、質が向上し、社会的信用の基盤となり得る、と強調。具体的には、医療者が見落としてしまう課題や疑問を拾い上げることができ、益と害の推定をより具体的にでき、患者市民の見解を反映した内容、そして患者市民の視点を尊重した表現で作成することができ、結果的にガイドラインの普及と活用につながる、と説明した。

現在は、HBOC診療ガイドライン2024年版が作成段階にあるとのこと。2021年版から、さらに新しいCQ(クリニカルクエッション)・FQ(フューチャーリサーチクエッション)がいくつか設けられる予定だ。

北野氏は、質の高い診療ガイドラインによって患者と家族の希望を繋いでいきたい、として講演を締め括った。

質疑の中では、人種差について触れられたが、現時点ではまだHBOCに関するデータが限られているため、海外のデータを区別したり、バイアスを考慮した解析はしていないが、日本人のデータが集まることで、将来的に検討可能になっていくとのことであった。

また、ガイドライン作成後の普及や活用に関する事後評価のようなモニタリングの重要性についても話題となり、今後の課題となっていく見込みだ。

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