がん治療と仕事の両立に必要なこと:サバイバーの立場から第61回日本癌治療学会学術集会より


  • [公開日]2023.10.24
  • [最終更新日]2023.10.24

9月19日~21日、第61回日本癌治療学会学術集会がパシフィコ横浜で行われた。同学術集会のセッション「社会連携・PAL委員会企画シンポジウム」の中で、「️対話の中での両立支援」というタイトルで前田留里氏(京都ワーキング・サバイバー)が発表した。

前田氏は自身も乳がん罹患経験を持ち、現在は交流会や相談会などの実施を通して、働く世代のがん患者支援をしている。

平成30年に実施した患者体験調査では、がん診断時に収入のある仕事に就いていた患者さんは全体で5割弱、AYA世代に絞ると8割にも上る。また、今後働く高齢者の増加が見込まれることから、この割合はどんどん増加していくだろう、と前田氏は言う。一方で、診断時に仕事の継続について十分な説明を受けた、と回答した患者さんは少なく、結果として全体の約2割の患者さんが仕事継続を諦めていることが分かった。特に治療開始前の「びっくり離職」が多く、十分な情報提供不足により仕事との両立が難しい現状がある、と前田氏は指摘した。

治療と仕事の両立のメリットは患者さんだけのものではない、と前田氏は言う。

もちろん患者さんにとっては、仕事を続けることで経済的安定を得ることができ、それが情緒的健康につながる。しかしそれだけではなく、勤め先の会社にとっては育てた人材の損失の回避、病院にとっては経済的理由での患者さんの受診への躊躇や治療の変更・中断の回避、また社会全体にとっても失業補償の増加とそれに伴う納税者の減少の回避等、それぞれの立場から見た利点がある。

以上の観点から、治療が終わってから仕事に戻ることを考える、ということではなく、診断時から仕事との両立を前提として治療計画を立てることが重要だと前田氏は強調した。

具体的には、告知時にネガティブな情報だけでなく、支持療法やサポート体制などが充実していることなどポジティブな情報も一緒に伝えること、患者さんの仕事に関心を持って治療目的やスケジュールを立てること、がん相談支援センターなどの専門家に繋ぐ情報を伝えること、の3つが挙げられた。また、それぞれの薬の副作用と仕事内容との相性も考慮に入れてほしい、と前田氏。治療中も仕事が可能だ、という一般的な事実の押し付けではなく、個々の状況に応じて一緒に考えていくことの大切さについてコメントした。

患者が悩む予想と現実のギャップには、目に言える問題(脱毛などアピアランスケアに関わるもの)、目に見えにくい問題(倦怠感や痺れや体力低下など)、思わぬ問題(眠気や物忘れ、集中力の低下)の3つがあり、前田氏自身も、認知力の低下で仕事が続けられなくなり治療をやめた経験があるという。当時、もう少し自身の状況を相談できる場や、生活の工夫などを聞く機会があれば違ったのかもしれない、と当時を振り返った。

治療のゴールは、がんを治すこと自体ではなく、患者が望む生活を取り戻すことだと前田氏。その第一歩として、普段のちょっとした対話の工夫から両立支援につなげていくことの大切さを強調し、講演を締め括った。

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