固形がんに対する治療薬の開発状況はこの1年間でどう動いたか?:注目の臨床試験をいっきにレビュー第82回日本癌学会学術集会より


  • [公開日]2023.10.19
  • [最終更新日]2023.10.19

9月21日~23日、第82回日本癌学会学術集会がパシフィコ横浜で行われた。同学術集会のセッション「Year in review」の中で、「インパクトを与えた臨床試験/Year in review: Practice changing clinical trials in 2022-2023」というタイトルで勝屋友幾先生 (国立がん研究センター中央病院 先端医療科)が発表した。

この1年間で、学会や文献に発表された臨床試験の中から、日常臨床に影響を与える可能性の高い試験として、固形がん(肺がん、消化器がん、乳がん、婦人科がん、泌尿器がん、悪性黒色腫)を対象に選定した、と勝屋先生。以下がそのレビュー内容である。

非小細胞肺がん(NSCLC)

ADAURA試験(アップデート):IB-IIIA期(標準化学療法レジメンが異なることからIB期には日本人含まれず)EGFR遺伝子変異陽性NSCLCへの術後補助療法としてオシメルチニブ(製品名:タグリッソ)を検討した第3相試験
オシメルチニブによる無再発生存期間RFS)の延長が示されたことから、既に昨年(2022年)承認を取得していたが、今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で初めて全生存期間OS)の延長のデータが示され、有効性がより頑健なものとなった。ただし、化学療法の省略の可否は明らかではないこと、3年間のオシメルチニブ内服に伴う有害事象の懸念があることなどから、術後のオシメルチニブに関しては、患者さんとの話し合いで決めていくことの重要性が指摘された。

AEGEAN試験:切除可能なNSCLCを対象とした術前デュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)+化学療法→術後デュルバルマブを検討した第3相試験
KEYNOTE-671試験:II-III期NSCLCを対象とした術前ペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)+化学療法→術後ペムブロリズマブを検討した第三相試験
既に術前のチェックポイント阻害剤(ICI)の効果を検討したCheckMate-816試験、術後ICIの効果を検討したImpower010試験やKEYNOTE-010試験は実施されてきたが、術前ICI+術後ICIに関してはこれまでデータがなかった。いずれの試験も高い病理学的奏効と無イベント生存期間の延長が示されたが、既に承認されている術前ICI or 術後ICIと比較してOSが延長するのか、長期追跡結果が待たれるとのことであった。

消化器がん

SPOTLIGHT試験:CLDN18.2陽性HER2陰性の切除不能局所進行または転移胃がん・食道胃接合部腺がんに対するゾルベツキシマブ(CLDN18.2を標的としたファーストインクラスのキメラIgG1モノクローナル抗体)+mFOLFOX6併用療法を検討した第3相試験
GLOW試験:CLDN18.2陽性HER2陰性の切除不能局所進行または転移胃がん・食道胃接合部腺がんに対するゾルベツキシマブ+CAPOX療法を検討した第3相試験
いずれにおいても、無増悪生存期間PFS)の延長が示されたことから、ゾルベツキシマブはCLDN18.2陽性HER2陰性の進行胃がん・食道胃接合部腺がんの1次治療として承認申請中となっている。
勝屋先生は、今後PD-L1陽性症例においてニボルマブ(製品名:オプジーボ)との使い分けが検討課題であるとコメントした。

FRESCO-2試験:治療歴のある転移性大腸がんに対するフルキンチニブ(VEGFR1/2/3に対する経口阻害薬)を検討した第3相試験
前治療の種類に関わらず、プラセボ群と比較してOSの有意な延長が確認されている。
米国食品医薬品局(FDA)では優先審査指定されており、日本でも年内に承認申請が行われる予定とのこと。
(※9月29日に承認申請したことが武田薬品工業株式会社より発表されている)

NAPOLI-3試験:未治療の転移性膵がんを対象としたNALIRIFOXを検討した第3相試験
1次治療の標準療法のひとつであるゲムシタビン(GEM)+ナブパクリタキセル(nabPTX)療法に対して、NALIRIFOX療法はPFS、OSともに有意な延長を示し、膵がんの1次治療に大きなインパクトを与えた。
しかし残念ながら同試験に日本は参加していないこと、またもう一つの1次標準療法であるFOLFIRINOXとの比較のデータがないことなどの課題も残されているようだ。

HERIZON-BTC-01試験:HER2陽性局所進行または転移性胆道がんに対するzanidatamab(HER2の2つの異なるドメインを標的としたヒト化二重特異性モノクローナル抗体)を検討した第2b相試験
HER2陽性胆道がんに関しては、昨年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でHER2に対する抗体薬物複合体であるT-Dxdが有効性を示した(奏効率36.4%)が、現時点で承認された薬はない。そして今年のASCOにおいてHERIZON-BTC-01試験が発表され、zanidatamabが奏効率41.3%の有効性を示した。
更にHER2陽性胆道がんに対しては、HER2選択的経口チロシンキナーゼ阻害薬ツカチニブ+抗HER2モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)併用療法の開発も進んでおり、今後の動向を注視していきたいと勝屋先生は語った。

KEYNOTE-966試験:進行胆道がんに対する1次治療として、ペムブロリズマブ)+化学療法の併用を検討した第3相試験
PD-L1発現率に関わらず、標準治療と比較してPFS、OSの延長を示した。既に進行胆道がんに対しては、ICIとして抗PD-L1抗体であるデュルバルマブが承認されている。KEYNOTE-966試験の結果を受けて、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブが2番目のICI承認となるかがポイントとなるようだ。

乳がん

DESTINY-Breast02試験トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1, 製品名:カドサイラ)による治療歴があるHER2陽性進行乳がんに対するトラスツズマブ デルクスデカン(T-Dxd, 製品名:エンハーツ)を検討した第3相試験
T-DM1とT-Dxdは、ペイロード(治療標的に効く薬物)や薬物抗体比、リンカー(ペイロードと抗体のつなぎ)などに違いがあるが、いずれもHER2を標的とした抗体薬物複合体である。同試験において、T-DM1後の2次治療としてT-Dxdが有意にPFS延長効果を示したことから、勝屋先生は、同じ種類の抗体薬物複合体でありながら、T-DM1耐性後にT-Dxdが有効性を示した点は興味深いと語った。

NATALEE試験:再発高リスクのHR陽性HER2陰性早期乳がんに対する術後内分泌療法へのリボシクリブ(CDK4/6阻害剤)の追加効果を検討した第3相試験
これまで術後内分泌療法へのCDK4/6阻害剤の追加に関しては、アベマシクリブ(製品名:ベージニオ)で追加効果が見られているが、一方のパルボシクリブでは効果がないという結果が得られている。本試験により内分泌療法への上乗せ効果を確認できた二つ目の試験として注目された。
勝屋先生は、既に乳癌診療ガイドラインにも記載されている「術後内分泌療法へのアベマシクリブの追加」の推奨を支持する結果となったとコメントした。

CAPItello-219試験:内分泌治療中または治療後に再発・増悪したHR陽性HER2陰性の転移性乳がんに対するcapivasertib(AKT1/2/3の選択的ATP競合阻害剤)とフルベストラント併用を検討した第3相試験
併用療法によるPFSの延長が示され、AKT阻害剤でよく見られる口内炎や高血糖の頻度も高くなかったと報告されている。
日本では現時点では承認申請に至っていないが、本試験結果を受けてFDAでは優先審査指定となっているようだ。

SONIA試験:HR陽性HER2陰性進行乳がんに対するCDK4/6阻害剤を1次治療と2次治療で比較した試験
乳癌診療ガイドラインでは、HR陽性HER2陰性進行乳がんに対する1次治療において非ステロイド性アロマターゼ阻害剤へのCDK4/6阻害剤の併用が、閉経前では提案、閉経後では推奨されているが、2次治療での使用に対する優越性に関しては、直接のエビデンスがなかった。
本試験で初めて比較検討した結果、CDK4/6阻害剤を1次治療で併用した場合と2次治療で併用した場合でOSに有意差は見られない、という興味深い結果となった。
これを受けて勝屋先生は、医療費の負担や長期毒性などの懸念を考慮した場合、本当に1次治療からCDK4/6阻害剤の追加が必須なのか?と疑問が投げた。

婦人科がん

RUBY試験:進行または再発の子宮内膜がんの1次治療として、抗PD-1抗体ドスタリマブ+化学療法を検討した第3相試験
NRG₋GY018試験:進行または再発の子宮内膜がんの1次治療として、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ+化学療法を検討した第3相試験
いずれの試験においても、1次治療における化学療法への抗PD-1抗体の追加によるPFSの延長が認められ、特にdMMR/MSI-highに対する高い効果が認められた。
抗PD-1抗体は、単剤療法として既に子宮内膜がんの2次治療として承認されており、1次治療における抗PD-1抗体単剤の効果は気になる点である、と勝屋先生はコメントした。

MIRASOL試験:葉酸受容体α高発現のプラチナ抵抗性卵巣がんに対するmirvetuximab soravtansine(葉酸受容体を標的とした抗体薬物複合体)を検討した第3相試験
本試験により、標準治療と比較してmirvetuximab soravtansineの優越性が示されたため、コンパニオン診断とともにFDAでは迅速承認され、プラチナ抵抗性卵巣がんのバイオマーカーに基づいた初めての薬剤となった。日本では武田薬品工業が開発担当であり、今後の見通しはこれからだろうとのこと。

泌尿器がん

EV-103試験シスプラチン不適応進行尿路上皮がんに対する1次治療としてのペムブロリズマブ+エンホルツマブ ベドチン(製品名:パドセブ)を検討した第1b/II相試験
1次治療における標準療法であるシスプラチンベースの治療薬が使用できない症例において、ペムブロリズマブ+エンホルツマブ ベドチン併用療法により奏効率64.5%を示したことから、FDAでは迅速承認を取得している。国内での1次治療については今後の動向を見ていきたい、と勝屋先生はコメントした。

悪性黒色腫

DREAMseq試験:進行性BRAF V600変異陽性悪性黒色腫に対するダブラフェニブ(製品名:タンフィラー)+トラメチニブ(製品名:メキニスト)併用療法(分子標的薬)と、ニボルマブ+イピリムマブ(製品名:ヤーボイ)併用療法(免疫チェックポイント阻害薬)のシークエンスを検討した第3相試験
確立された二つの併用療法に関して、どちらを初回にすべきかという疑問に答えを出した初めての試験。本試験の結果からは、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法を1次治療、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法を2次治療とする順序がより予後延長につながるという結論となった。

最後に勝屋先生は、日々情報がアップデートされる中で、専門外の領域含めてアップデートし実臨床に役立てていくことが大切だとして講演を締めくくった。

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