この記事の3つのポイント
・遺伝子検査に基づく臨床試験の参加と移動距離及び移動時間との関連検討
・包括的ゲノムプロファイリング検査後に国立がん研究センター中央病院に紹介された患者さんが調査の対象
・移動時間が遺伝子検査に基づく臨床試験の参加に影響し、地域格差の一因であることを示唆
国立がん研究センター中央病院 先端医療科の上原悠治氏、小山隆文氏らは、日本のがん治療におけるゲノム医療の地域格差を初めてデータとしてまとめ、9月15日に国際英文ジャーナル「JAMA network open」に公表した。
がんゲノム医療に基づく薬剤開発や遺伝子検査の技術の普及により、がん治療におけるCGP検査、またその結果に応じた治療の重要性が増している。
患者さんが遺伝子検査結果に基づく臨床試験を受けるためには、検査実施施設から試験参加施設への紹介を受けることが必要であるが、施設の移動にかかる負担と実際の試験との関連についてはこれまで明らかではなかった。
そこで今回上原氏らは、移動時間や距離が包括的ゲノムプロファイリング検査後の試験参加における格差との関わりについての評価を行った。
同試験の調査対象は、CGP検査及び結果の検討後、国立がん研究センター中央病院に紹介された進行性または転移性固形がん1227例(年齢の平均が62歳(16-85歳)、女性52%)。遺伝子検査結果に基づく臨床試験及び全がん臨床試験への登録における移動時間と移動距離の影響を検討。全体の127人(11%)および241人(21%)がそれぞれ遺伝子型一致試験および全がん臨床試験に登録された。
結果は、移動距離(100km以上 vs 100km未満)は遺伝子検査結果に基づく臨床試験参加の可能性とは関連しなかった(310例中26例 vs 807例中101例;オッズ比=0.64[95%CI:0.40-1.02])。
一方、移動時間が120分以上の患者では、移動時間が120分未満の患者よりも遺伝子検査に応じた臨床試験への参加の可能性が有意に低かった(276例中19例 vs 851例中108例;オッズ比=0.51[95%CI:0.29-0.84])。
また、移動時間が40分未満(283例中38例)から40~120分(568例中70例)、120分以上(276例中19例)になるにつれて、遺伝子型が一致した試験に参加する可能性は減少した(それぞれオッズ比=0.74[95%CI:0.48-1.17];オッズ比=0.41[95%CI:0.22-0.74])。
なお、全がん臨床試験参加の可能性に関しては、移動時間および距離のいずれも関連が認められなかった。
これらの結果は個別化治療の地域格差における移動の負担に関する初めての報告であり、移動距離の評価項目としての妥当性が明らかになった。また、格差解消のための分散型臨床試験(DCT)などの対策の重要性も示唆する結果である。
参照元:Travel Time and Distance and Participation in Precision Oncology Trials at the National Cancer Center Hospital(JAMA Netw Open. 2023. DOI:10.1001/jamanetworkopen.2023.33188)