内膜肉腫におけるMDM2阻害剤の有効性と薬剤耐性機序を報告:超希少がんの治療開発に向け第一歩ー国立がん研究センターー


  • [公開日]2023.07.18
  • [最終更新日]2023.07.14

国立がん研究センターは、超希少がん内膜肉腫を対象とした第1b/2相医師主導治験(MADAMEPRINCESA 試験/ NCCH1806 /MK04)の中で、MDM2阻害剤の有効性を確認、同時に薬剤耐性メカニズムを同定した。

研究成果は、米癌学会旗艦誌「Cancer Discovery」に現地時間2023年6月27日付で掲載されており、同センターは7月13日の記者会見を実施。主に小山隆文先生(国立がん研究センター中央病院 先端医療科 医長)、市川仁先生(国立がん研究センター研究所 臨床ゲノム解析部門 研究員)、高阪真路先生(国立がん研究センター研究所 細胞情報学分野 分野長)から研究成果が発表された。

発表の要点は主に2つ。

1つ目は、超希少がんである内膜肉腫を対象とした医師主導治験において、MDM2阻害剤(ミラデメタン)の有効性が示唆される結果を初めて示したことである。

MDM2は内膜肉腫の約60-70%で増幅が見られ、がんの抑制に関わるp53というたんぱく質と結合することによってp53の活性化を阻害することが知られている。そのため、MDM2阻害剤によりMDM2とp53との結合を阻害し、p53の抗腫瘍活性をもたらすことが期待されていた。

今回は、治験に登録された10名の患者のうち2名で非常に高い効果が見られた、と小山先生。全体の無増悪生存期間PFS)の中央値は4.7カ月、全生存期間OS)の中央値は12.3カ月であった。

なお同治験は、中央病院で実施されている希少がんの研究開発およびゲノム医療を推進する産学共同「MASTER KEY プロジェクト」の枠組みの中で実施された。

もう1つは、薬剤耐性に関わる遺伝子変異を同定したことである。
もともとは、MDM2の増幅度合いと効果が相関すると予想されていたが、実際には十分な相関性が見いだせなかった、と市川先生。そこで、内膜肉腫における異常が多いとされている8個の遺伝子、およびMDM2阻害剤の抗腫瘍効果との関連が報告されている10個の遺伝子を解析したところ、TWIST1の増幅が効果との正の相関を示し、CDKN2A欠失が負の相関を示すことが明らかとなった。

更に、高阪先生からは、10名の患者のうち8名で血中ctDNA(circulating tumor DNA)を経時的に調べた結果が説明され、5名の患者において、病勢進行とともにTP53変異の出現・増加が見られたとのことであった。

以上の結果を受けて小山先生は、TWIST1増幅やCDKN2A欠失などを新しい効果予測バイオマーカーとして、MDM2阻害剤が有効な患者を選択したり、MDM2阻害剤と他の治療薬との併用療法を開発したりすることが可能になる、と期待を述べた。また治療中のctDNAによるTP53変異のモニタリングを行うことで、病勢を評価できる可能性もあると言う。

更に小山先生によると、がんの組織や血液を経時的に解析することによって、抗がん剤の効果はもちろん、効果予測マーカーや耐性機序を見出す体制が国立がん研究センターにおいて確立されつつあるとのこと。大規模な臨床試験の実施が難しい超希少がんにおけるPrecision Oncology(精密がん治療)に向けたモデル構築となり、希少がん領域における臨床開発の活性化への貢献が期待できる、と将来展望を語った。

また間野博行先生(国立がん研究センター研究所 所長)は、今回の研究に関して、病院と研究所が密に連携できている同センターだからこその成果であるとコメントした。


(画像はリリースより)

■参考
国立がん研究センター プレスリリース

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