国立がん研究センターらは6月9日、アジア人における非喫煙者の肺腺がんリスクに関与する遺伝子を複数同定したことを明らかにした。
これは、国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野、愛知がんセンターがん予防研究分野など複数の施設による共同研究の成果であり、5月26日(米国東部時間)付で、英科学誌「Nature Communications」に掲載されている。
肺腺がんは、肺がんの中でも最も発症頻度が高く、現在も増加傾向にある。しかしながら、肺がんの危険因子である喫煙との関連が比較的弱く、喫煙以外の危険因子が特定されていないため、発症リスクの予測や発症予防が難しいという課題がある。
そのため、新しい危険因子の同定とそれに基づく罹患危険度の診断法が求められている。また、肺腺がんの発症には人種差があることが知られており、非喫煙者における発症頻度が欧米人と比較してアジア人で高いことが報告されている。
そこで国立がん研究センターらは、肺腺がんへの罹りやすさを決める遺伝子の個人差(遺伝子多型)を網羅的に同定するとともに、欧米人との比較を行った。
具体的には、日本人を含むアジア人の肺腺がん患者約2万例と肺がんに罹患していない人約15万例についてゲノムワイド関連解析(遺伝子多型を用いて疾患リスクを決める遺伝子を見つける方法)を実施。その結果、次の3つのことが明らかになった。
- アジア人における肺腺がんリスクを決める28個の遺伝子に個人差が見られる(これまで遺伝子多型が知られていた21個の遺伝子に加えて、新たに7遺伝子を同定)
- 今回同定されたアジア人の遺伝子多型は、欧米人患者の肺腺がんリスクを決める遺伝子多型の個数と比較して数が多い
- 非喫煙者における肺腺がんのリスクは、ポリジェニックスコア(個人が持つ疾患の発症リスクを高めるすべての遺伝子の個人差をスコア化したもの)との相関がより高く、喫煙者と比較して遺伝子の個人差の影響が大きい
今後の展望として、国立がん研究センターらはプレスリリースの中で、「今回同定された肺腺がんリスクに関わる遺伝子の個人差を用いて算出されるポリジェニックスコアから、非喫煙者における肺腺がんリスクを推定できることが分かりました。今後は、喫煙の有無や飲酒、ストレスなどの他の環境因子などと組み合わせ肺腺がんリスクの高い群を同定し、肺がん個別化予防の手法の研究開発につなげていきたいと考えます」と述べている。
参照元:
国立がん研究センター プレスリリース