日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は4月28日、未治療進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)を対象に、化学療法+ペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)併用療法と化学療法+ニボルマブ(製品名:オプジーボ)+イピリムマブ(製品名:ヤーボイ)併用療法の有効性を比較する第3相試験「JCOG2007試験(特定臨床研究)」において、化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ併用療法を行った患者で予期していた範囲を超える約7.4%(11人/148人)の治療関連死亡が認められたと発表。患者の安全性を担保して同試験を継続することは困難と判断し、3月30日に同試験を中止したと発表した。
2022年4月に登録を一時停止、安全性を高めた上で再開も
第3相JCOG2007試験は、未治療の進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)と診断された患者を対象に、「化学療法+ペムブロリズマブ療法(A群)」と「化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ療法(B群)」の治療効果を比較・検討するために、全国59施設の共同で2021年4月より実施していた。なお、両併用療法は本邦において、現在ともに保険が適用されている。
(画像は報道発表資料より)
2022年4月時点において、全体で261人(A群130名、B群131名)の患者が参加し、B群において、9人(6.9%)の患者において、治療の副作用による死亡(治療関連死亡:肺臓炎3人、サイトカイン放出症候群2人、敗血症1人、心筋炎2人、血球貪食症候群1人)が発生していた。この死亡数は、予期していた範囲である5%を超えており、2022年4月28日に登録を一時停止したという。
その後、同試験に参加した施設の医師の間で、死亡となった患者の詳細な経過を検討し、安全性を確保するための方策を議論。説明文書の改訂や、患者用の臨床試験参加カードの作成、医師に対する副作用対策の講習、同試験以外での「化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ」の副作用情報の収集などの取り組みを実施した。また、登録停止中にさらなる治療関連死亡は発生していなかった。
検討の結果、治療関連死亡で亡くなられた患者に多く見られた「白血球数が多く(>8,600/mm3)かつ好中球数とリンパ球数の比が大きい(>5)」という特徴を見出し、この特徴をもった患者が試験に登録されないように規準を変更。安全性を高めた上で2022年10月3日に登録を再開。登録再開後、34人の患者が参加し、全体の参加者数は295人(A群147名、B群148名)となった。
しかし、2023年3月16日にB群の患者において、10人目の治療関連死亡が発生。この患者は、1年以上安定した治療継続ができていたにもかかわらず、急激な経過で亡くなったという。また、先述の条件に合致していなかったことから、安全性を高めたはずである変更後の登録規準でも防げなかった治療関連死亡と考え、2023年3月30日に同試験の中止を決定した。さらに2023年4月1日、11人目の治療関連死亡(肺臓炎)が報告され、にB群に登録された患者148人のうち11人(7.4%)の患者で治療関連死亡が発生したことになった。
(画像は報道発表資料より)
「ニボルマブのみ」での治療継続を推奨
現時点では、B群で治療関連死亡が予想を超えて多く発生した原因は不明だが、「イピリムマブ」の影響が強い可能性が考えられるため、同試験でB群の治療を継続中の患者は、「イピリムマブ」を中止し、「ニボルマブのみ」での治療継続を奨めている。一方、これまでの一人ひとりの患者における治療効果や副作用を勘案した慎重な判断が必要であるとし、それらを熟知している担当医と患者で相談して治療を行うよう、周知している。
また、同試験以外でニボルマブ+イピリムマブ併用療法を受けている未治療進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)の患者においても、自己判断で治療を中断せず、必ず主治医と相談するよう注意を促している。
JCOGはプレスリリースにて、「『化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ療法』において、治療との因果関係を否定できない死亡が予期された範囲を超えて確認されたことを受け、本試験は中止となりましたが、これまでに本試験に参加いただいた患者さんの治療経過や副作用に関するデータは、最終的に「化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ療法」の有効性と安全性を判断する上での大変重要な情報であり、今後も引き続き情報を集めさせていただきたいと考えております」と述べている。
同日行われた記者会見において、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)データセンターの福田治彦氏(国立がん研究センター 中央病院 臨床研究支援部門 データ管理部 部長)は、同試験で多くの死亡例が確認されたことについて、「(JCOGでは年間12試験ほどの臨床試験を行っているが)10年に1度、100試験に1回ほどの頻度。非常に稀なケース」とした。また、同併用療法は長期生存が期待される治療であることから、研究代表医師である岡本勇氏(九州大学病院 呼吸器科 科長)は、「どうすればこの併用療法を安全に使うことができるのかということを考え、研究していかなければならない」と述べた。
なお、同試験の結果は今後、国内外の学会や学術雑誌で発表予定としている。
参照元:国立がん研究センター プレスリリース