3月27日、国立がん研究センターは、日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)の肺がん外科グループが腫瘍の最大径が3cm以下の早期肺がんに対する外科治療において区域切除も有用であることを示したと発表した。
JCOGの肺がん外科グループは、胸部薄切CTにおける腫瘍の最大径が3cm以下であり、すりガラス影を主とする肺がん患者(N=357人)に対して、リンパ節郭清を伴う区域切除を実施し、5年時点の無再発生存割合と安全性などを検証した単群検証的比較試験を行った。なお、同臨床試験の無再発生存割合の基準値は87%と設定された。
(画像はリリースより)同試験が実施された背景として、近年、肺がんはがん検診やCTの普及に伴ってより早期に発見されるようになり、治癒を目指せる外科手術の重要性が増してきている。現在、3cm以下の肺がんに対する標準治療は肺葉切除とされているが、平均余命の延長に伴う肺がんを含む新たながんの罹患増加や罹患年齢の高齢化が進み、肺機能の温存が重要視されている。また、肺の切除範囲が大きいと術後の患者の日常生活動作に影響をおよぼす。そのため、がんの根治と肺の機能温存を両立させる手術が強く求められていた。
(画像はリリースより)同試験の結果、術後5年時点における無再発生存割合は98%を示し、最低値として設定していた87%を有意に上回った。また、術後1年後の肺活量(1秒量)の低下は、肺葉切除と比較して区域切除を受けた患者の方が有意に少なかった。
(画像はリリースより)一方の安全性として、区域切除後の早期に発症したグレード3~4の有害事象は、肺感染(1%)、肺瘻(1%)、胸水(1%未満)、漿液腫(1%未満)であった。
以上の結果より、腫瘍の最大径が3cm以下の早期肺がん患者に対する区域切除は、肺葉切除に加えて標準治療のひとつになると結論付けられた。
プレスリリースでは「3 cm以下ですりガラス影を主とする肺がんに対しては、切除マージン(がんからの適切な距離)が確保できれば、区域切除を行うことが第一選択として推奨されます。(中略)日本だけでなく世界的にも標準治療の肺葉切除に加えて区域切除が行われる機会が増え、肺がん患者さんにより有用な手術が適用されることが期待されます」と今後の展望が示されている。
なお、同臨床試験の詳細な結果は、医学誌『The LANCET Respiratory Medicine』にて発表されている。
日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)とは 日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)は、国立がん研究センター中央病院が中央支援機構を担い、支援している多施設共同臨床研究グループ。国立がん研究センター研究開発費や日本医療研究開発機構研究費など公的研究費による助成を受け研究を進めている。新しい治療法の開発や検証的試験の実施を通じて、科学的証拠に基づいて第一選択として推奨すべき治療である標準治療や診断方法等の最善の医療を確立することを目的として、各種がんの治癒率の向上とがん治療の質の向上を図ることを目標として研究活動を行っている。
すりガラス影とは 肺胞内に液体がたまる疾患や、肺胞の壁が肥厚する疾患、肺胞内の炎症や感染症、肺がんなどが原因で、CT画像において、肺の中にすりガラスのような模様がみられるもの。初期の肺腺がんではすりガラス影が認められる。すりガラスに見えない部分は充実部分と呼ばれている。
区域切除とは 区域切除は、肺の切除方法の1つである。肺葉は左右で5つあり、その肺葉単位で切除を行うのが肺葉切除であるが、区域切除は肺葉をさらに細かく区分けしたその単位で切除を行うこと。
参照元:国立がん研究センター プレスリリース