抗がん剤エリブリンに陽電子放射核種炭素を導入、脳の悪性腫瘍における体内動態を解析ー理化学研究所らー


  • [公開日]2023.03.22
  • [最終更新日]2023.03.20

3月14日、理化学研究所らは、乳がんや悪性軟部腫瘍の治療薬である抗がん剤エリブリン(一般名:ハラヴェン、以下エリブリン)に陽電子放射核種炭素11(11C)を導入することで、分子の新たな標識法を発見するとともに体内動態の解析に成功したと発表した。

今回の研究が実施された背景として、近年エリブリンは、乳がんや悪性軟部腫瘍のほかに、膠芽腫に有効である可能性が明らかにされた。動物モデルにおいても脳にがん組織が移植されたマウスで、がん組織が縮小したという報告もある。また、分子の存在する部分を可視化する質量分析イメージングという技術を用いた実験により、エリブリンががん組織に特異的に浸透し、周囲の正常な脳組織にはほとんど集積していないことが明らかになっていた。さらに、医師主導治験として悪性度の高い脳腫瘍患者を対象にエリブリンを投与した結果、その有効性も示されている。

また、新たな薬物療法を確立するためには、投与された薬剤が患部にどの程度行き届くのかを把握し、適切な投与量を検討することが重要である。PETイメージングを使用することにより、エリブリンを陽電子放射核種で認識できれば、低侵襲で分子の集積を可視化することができ、がん組織におけるエリブリンの濃度を算出することが可能になる。そのため、寿命の短い陽電子放射線核種である11Cの導入を試みたという。

今回の研究では、まずエリブリンの構造のどこに11Cを組み込むかを検討。次にPET(陽電子放出断層撮影)イメージングにより11Cで標識したエリブリンが脳にある悪性腫瘍に到達するかを観察した。

その結果、エリブリン合成の最終段階で11Cを組み込むことができ、さらに11Cを迅速に精製する条件なども検討し、最終的に合成時間40分以内に、250メガベクレル程度の放射能を持つエリブリンが得られる、再現性の高い方法を確立した。これにより、エリブリンをPETイメージングにより識別することが可能となった。

次にPETイメージングでの観察の結果、がん組織がある右脳に特異的に集積し、左脳などの脳の正常な組織ではエリブリンは観察されなかった。この結果は、先行研究とも矛盾がなく、エリブリンの体内動態の解析に有効性を示した。

以上の結果より、今回開発された11Cを導入したエリブリンは、投与時の適切な投与量を推定できるとともに、乳がんなどの転移の際に転移巣を可視化することに期待できるという。一方、実臨床への導入には、病院が保有する自動合成装置で今回の合成法を再現すること、一度の合成で得られる放射能量を増加させることが求められるという課題がある。プレスリリースでは、「今後、11Cを導入する手法をさらに高度化し、これらの課題を克服することで、新たな医療の提供につながると期待できます」と述べている。

エリブリンとは
エリブリンは、抗がん剤の1種であり、海綿の1つであるクロイソカイメンに含まれる天然の化合物ハリコンドリンBを基に開発された。エリブリンは結合している4つの置換基が異なる不斉炭素を19個持つため非常に複雑な化学構造を持ち、化学合成の難易度が高い医学分子である。

参照元:
理化学研究所 プレスリリース

×

この記事に利益相反はありません。

会員登録 ログイン