BRCA1/2遺伝子変異ステータス別の再発/転移性トリプルネガティブ乳がんに対するPARP阻害薬ベリパリブ+シスプラチン併用療法、BRCA-like群で無増悪生存期間を改善The Lancet Oncologyより


  • [公開日]2023.01.31
  • [最終更新日]2023.01.16
この記事の3つのポイント
再発/転移性トリプルネガティブ乳がん患者が対象の第2相試験
・ベリパリブ+シスプラチン併用療法の有効性安全性プラセボ+シスプラチンと比較検証
BRCA1/2遺伝子変異ステータス別による無増悪生存期間は、BRCA-like群においてベリパリブ+シスプラチンで5.9ヶ月、プラセボ+シスプラチンで4.2ヶ月を示し、統計学的有意に延長した

2023年1月6日、医学誌『The Lancet Oncology』にて再発/転移性トリプルネガティブ乳がんもしくはBRCA1/2遺伝子変異陽性の再発/転移性トリプルネガティブ乳がん患者に対するPARP(ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ)阻害薬であるベリパリブ+シスプラチン併用療法の有効性、安全性を比較検証した第2相のS1416試験(NCT02595905)の結果がUniversity of California Davis Comprehensive Cancer CenterのEve Rodler氏らにより公表された。

S1416試験は、再発/転移性トリプルネガティブ乳がんもしくはBRCA1/2遺伝子変異陽性の再発/転移性トリプルネガティブ乳がん患者(N=335人) に対して21日を1サイクルとして1~14日目に1日2回ベリパリブ300mg+1日目にシスプラチン75mg/m2併用療法を実施する群(N=162人)、もしくは21日を1サイクルとして1~14日目に1日2回プラセボ+1日目にシスプラチン75mg/m2併用療法を実施する群(N=158人、うち1名は男性)に1対の割合で無作為に振り分け、主要評価項目として主治医評価の無増悪生存期間(PFS)、その他評価項目として安全性などを比較検証した第2相試験である。なお、本試験に登録された患者はBRCA1/2遺伝子変異ステータス別に3群に分かれており、それぞれgBRCA陽性群、BRCA-like群、非BRCA-like群である。

本試験が開始された背景として、PARP阻害薬はBRCA1/2遺伝子変異陽性転移性乳がんに対して臨床的意義のある抗腫瘍効果を示している。しかしながら、BRCA1/2遺伝子変異陰性トリプルネガティブ乳がんに対するPARP阻害薬+プラチナ系抗がん剤ベースの治療法の有用性に関しては臨床データが不足している。以上の背景より、BRCA1/2遺伝子変異ステータス別の再発/転移性トリプルネガティブ乳がんに対するPARP阻害薬ベリパリブ+シスプラチン併用療法の有用性を検証する目的で本試験が開始された。

本試験に登録された335人の患者背景は下記の通りである。BRCA遺伝子変異ステータス評価可能であった患者は247人であり、内訳はgBRCA陽性群37人、BRCA-like群101人、非BRCA-like群109人であった。

本試験のフォローアップ期間中央値11.1ヶ月時点における結果、BRCA遺伝子変異ステータス別の主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の結果は下記の通りである。

gBRCA陽性群の無増悪生存期間(PFS)中央値は、ベリパリブ+シスプラチン併用群の6.2ヶ月(95%信頼区間:2.3-9.2ヶ月)に対してプラセボ+シスプラチン併用群で6.4ヶ月(95%信頼区間:4.3-8.2ヶ月)を示し、ベリパリブ+シスプラチン併用群で病勢進行または死亡(PFS)のリスクを21%減少(HR:0.79、95%信頼区間:0.38-1.67、P=0.54)した。

BRCA-like群の無増悪生存期間(PFS)中央値は、ベリパリブ+シスプラチン併用群の5.9ヶ月(95%信頼区間:4.3-7.8ヶ月)に対してプラセボ+シスプラチン併用群で4.2ヶ月(95%信頼区間:2.3-5.0ヶ月)を示し、ベリパリブ+シスプラチン併用群で病勢進行または死亡(PFS)のリスクを43%減少(HR:0.57、95%信頼区間:0.37-0.88、P=0.010)した。

非BRCA-like群の無増悪生存期間(PFS)中央値は、ベリパリブ+シスプラチン併用群の4.0ヶ月(95%信頼区間:2.5-4.7ヶ月)に対してプラセボ+シスプラチン併用で群3.0ヶ月(95%信頼区間:2.2-4.4ヶ月)を示し、ベリパリブ+シスプラチン併用群で病勢進行または死亡(PFS)のリスクを11%減少(HR:0.89、95%信頼区間:0.60-1.33、P=0.57)した。

一方の安全性として、多くの患者で確認されたグレード3以上の治療関連有害事象(TRAE)は、好中球減少症がベリパリブ+シスプラチン併用群の46%(N=71/155人)に対してプラセボ+シスプラチン併用群で20%(N=29/147人)、リンパ球減少症が27%(N=42人)対7%(N=11人)、貧血が23%(N=35人)対8%(N=12人)、血小板減少症が19%(N=29人)対3%(N=4人)であった。重篤な有害事象(SAE)発症率は、ベリパリブ+シスプラチン併用群の31%(N=48人)に対してプラセボ+シスプラチン併用群で36%(N=53人)、治療関連有害事象(TRAE)による死亡はベリパリブ+シスプラチン併用群で1人(敗血症)、プラセボ+シスプラチン併用群で1人(急性腎障害と心不全)がそれぞれ確認された。

以上のS1416試験の結果よりEve Rodler氏らは「再発/転移性トリプルネガティブ乳がんもしくはBRCA1/2遺伝子変異陽性の再発/転移性トリプルネガティブ乳がん患者に対するPARP阻害薬ベリパリブ+シスプラチン併用療法は、BRCA-like群で無増悪生存期間(PFS)を統計学的有意に改善するものの、非BRCA-like群では改善を示さなかった」と結論を述べている。

Cisplatin with veliparib or placebo in metastatic triple-negative breast cancer and BRCA mutation-associated breast cancer (S1416): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial(Lancet Oncol. 2023 Jan 9;S1470-2045(22)00739-2. doi: 10.1016/S1470-2045(22)00739-2.)

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