2023年1月24日、国立がん研究センターと九州大学は、外科治療が行われる大腸がん患者を対象にリキッドバイオプシーを用いて再発リスクをモニタリングするレジストリ研究(GALAXY試験)の結果を発表した。
大腸がんは、国内で2番目に患者数の多いがん腫であり、切除可能な場合は手術で根治を目指す。その際、病理組織の結果から推定される再発リスクに応じた術後補助化学療法が選択されるが、その副作用としての末梢神経障害による手足のしびれが長期化するという問題がある。
そこで国立がん研究センター東病院副院長の吉野孝之氏、九州大学病院消化器外科准教授の沖英次氏らの研究グループは、最新のリキッドバイオプシー解析技術を用いて、外科治療を受ける大腸がん患者の術後再発リスクを高精度に推定し、個別化医療の実現を目指す「CIRCULATE-Japan(サーキュレートジャパン)」プロジェクトを立ち上げた。
同プロジェクトの一環として行われたGALAXY試験は、外科治療が行われる大腸がん患者(N=1039人)を対象に、血液中にごく微量に存在するがん由来のDNAである血中循環腫瘍DNAを検査し、術前と術後に再発リスクを観察する前向き研究である。同試験には台湾から1施設が参加したほか、国内で約150施設が参加した。
同試験の中間解析の結果、術後4週時点において血中循環腫瘍DNA陽性群は血中循環腫瘍DNA陰性群に対して再発リスクが高いことが判明。また、18ヶ月時点における無病生存割合は、血中循環腫瘍DNA陽性群で38.4%、血中循環腫瘍DNA陰性群で90.5%を示した(HR:10.82、P<0.0001)
(画像はリリースより)術後4週時点における血中循環腫瘍DNA陽性のステージII/IIIの患者群における18ヶ月時点での無病生存割合は、術後補助化学療法を受けた患者群で61.6%を示し、術後化学療法を受けなかった患者群の22.0%に対して再発リスクが低下することが明らかになった(HR:6.59、P<0.0001)。
一方、術後4週時点の血中循環腫瘍DNA陰性の患者群における18ヶ月時点での無病生存期間は、術後化学療法を受けた患者群の91.5%に対して術後化学療法を受けなかった群で94.9%と、両群間での統計学的差は認めなかった(HR:1.71、P=0.16)。
(画像はリリースより)以上の結果より、術後4週時点の血中循環腫瘍DNAが陽性であるか、陰性であるかが再発リスクと関連性があることと、術後4週時点での血中循環腫瘍DNA陽性群では術後補助化学療法によって再発リスクを低下させられる可能性が示唆された。これにより今後、術前ならびに術後に血中循環腫瘍DNAを測定することで、大腸がん患者の再発リスクに応じた個別化医療につながることが期待される。
GALAXY試験の研究代表者である吉野孝之氏は、同日開催された記者会見において、「これまでの臨床試験は、アメリカなど海外で先に結果が出るため、日本での臨床試験結果が出るまでにラグがあったが、今回の試験は日本が海外を抑えて先に結果を出した点でインパクトの大きい試験となりました。できる限り早く承認申請に持っていき、日本人患者さんが恩恵を受けられるようにしていきたい」と抱負を述べた。また、沖英次氏は「本研究結果の検証のために行われている他試験の今後の結果にも注目してほしい」と締めくくった。
参照元:国立がん研究センター プレスリリース