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高悪性度の白血病のがん遺伝子発現制御機構を解明、MLL-AF4白血病を発症させる動物モデルを構築

2022年12月13日、国立がん研究センターは、悪性度が高い白血病の原因遺伝子であるMLL-AF4からRNAが生成され、そこからタンパク質が作られる過程を抑制するメカニズムを発見したと発表した。このメカニズムの同定により、MLL-AF4が起因となる白血病の発症メカニズムの解明や、新たな治療薬の開発に結び付くことが期待されるという。

白血病は、若年層で最も多くみられるがん腫であり、既存の治療法では治癒にいたらない予後不良のタイプも存在するため、創薬研究のニーズは高い。しかし、白血病の発がんドライバー遺伝子としてMLLとAF4融合遺伝子が報告されているものの、これまで骨髄性白血病を引き起こす動物モデルを作ることが極めて困難であり、創薬研究が進まなかったという。


(画像はリリースより)

今回の研究では、MLL-AF4が何らかの抑制的な制御を受けるために、マウスの造血細胞にMLL-AF4遺伝子を導入しても白血病が発症しないという仮説を立て、MLL-AF4遺伝子の転写からタンパク質として発現するまでの過程の中でどのような制御を受けるかを検証した。

その結果、RNAの働きを抑制する作用を持つRNA結合タンパク質であるKHDRBやIGFBP2がMLL-AF4に作用し、RNAのタイミングで抑制制御を受けることで、タンパク質の機能が発揮されず、骨髄性白血病を発症したマウスモデルの構築ができないということが明らかになった。そこで、RNA結合タンパクの影響を受けない改変MLL-AF4を作成し、マウスの造血細胞に導入することでマウスの生体内で白血病を引き起こすことが可能となったという。

また、抑制機能のメカニズムを解析した結果、ヒトのAF4遺伝子だけに特異的な抑制制御をもたらすリボソーマルストーリング制御を同定。通常、RNAはリボソームというタンパク質複合体と結合してタンパク質を産生(翻訳)するが、このリボソーマルストーリングは、MLL-AF4のRNAがリボソームで翻訳される際に、その翻訳過程を途中で停止してしまう。ヒトのMLL-AF4の白血病細胞では、何かしらの理由でこの制御メカニズムが回避されるために、MLL-AF4融合遺伝子が発がんドライバーとなりがん細胞を増殖させていると考えられる。つまり、リンパ性白血病細胞においても制御メカニズムの回避を抑制する働きを誘導することができれば、MLL-AF4の働きを選択的に阻害する優れた治療法の開発につながると期待される。

なお、同研究は、公益財団法人庄内地域産業振興センターと国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室の研究グループらが実施しており、結果は科学誌「Nature Communications」に掲載されている。

骨髄性白血病とは
通常白血球は、骨髄中で生成される骨髄芽球が成熟することで作られる。骨髄性白血病は骨髄芽球になる前に遺伝子変異が起こり、細胞が無限に増殖することで引き起こされる白血病である。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

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