EGFR遺伝子変異陽性肺がんの薬剤耐性の原因となる融合遺伝子の見分け方と克服法を提唱ー国立がん研究センターー


  • [公開日]2022.10.13
  • [最終更新日]2022.10.12

10月7日、国立がん研究センターは、EGFR遺伝子変異陽性の肺がんにおける薬剤耐性機序としての融合遺伝子を包括的に調べ、薬剤耐性の原因の見分け方とそれを克服するための有効な併用療法を提唱したと公表した。

肺がんの組織型の1つである肺腺がんでは、EGFR遺伝子の変異が見られ、その頻度は日本人を含むアジア人では約50%、欧米人では約20%と言われている。進行期ならびに再発のEGFR遺伝子変異陽性肺がんに対する標準治療として、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるタグリッソ(一般名:オシメルチニブ)が選択されることが一般的であるが、薬剤の効果が得にくくなる「薬剤耐性」を約1~2年で獲得することが問題となっている。

これまで、薬剤耐性の詳細について遺伝子の構造変化や、他の遺伝子変異への存在、肺腺がんからの組織型の変化などが報告されているものの、どれも研究段階であり解明はされていない。また、薬剤耐性の機序に大きく関与しているという融合遺伝子の多くは、次世代シークエンサーでの検出が困難な場合であり、研究が進んでいない。そのような背景から、薬剤耐性に対する克服法が望まれていた。

今回の研究は、EGFR遺伝子変異陽性肺がん患者(N=504人)のDNA検体を対象に、あらかじめ設定されていない標的遺伝子も広く検出できる次世代シークエンサーで解析。 そこで検出された候補の融合遺伝子104種類から発がん遺伝子を含む37種類の融合遺伝子についてさらなる解析を行った。

37種類の融合遺伝子に対しては、実際の治療経過や過去に発がん融合遺伝子を検出したRNAシークエンスや、がん細胞のDNAを切断し、直接編集して改変、作成された実験細胞モデル(CRISPR-Cas9ゲノム編集細胞モデル)を用いたデータと統合し、各融合遺伝子の役割を検証した。その結果、薬剤耐性の機能をもつ融合遺伝子は一部であることが明らかになったという。

次に、ゲノム編集技術を用いて、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤に耐性を獲得する融合遺伝子を作成。薬剤スクリーニングを行い、効果がある薬剤の同定とその薬剤とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の併用療法で耐性が生じる機序を解析した。

その結果、薬剤耐性を獲得する原因は、EGFR遺伝子側、融合遺伝子側、共通のシグナル経路、新規のそれぞれにおける耐性機序などであることが判明。細胞実験を行うことでこれらの薬剤耐性を克服するための薬剤も同定したとしている。

融合遺伝子を正しく検出することは困難であるが、この課題が解決することでALKチロシンキナーゼ阻害剤やRETチロシンキナーゼ阻害剤など保険償還されている薬剤とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の併用療法を実臨床に応用できる可能性が示唆された。今回の研究は多岐にわたって融合遺伝子の検出を行ったが、第1ステップとして、将来的には単一の検査で正しく治療標的となる融合遺伝子を検出できる方法の開発が望まれる。そして臨床試験などを通じて臨床での治療応用が期待される。

なお、この研究は米Dana-Farber Cancer Instituteと共同で行われ、海外の学術誌でも公開されている。

EGFRチロシンキナーゼ阻害剤とは
EGFR遺伝子変異によって生じる異常な酵素の活性を抑制し、がんの増殖に関わるシグナル伝達を阻害することでがん細胞の増殖を抑えるよう設計された薬剤。現在、標準治療で使用されるタグリッソは第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害剤と呼ばれ、第1世代EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の治療後に生じる薬剤耐性の変異EGFR T790Mに対しても治療効果があるよう開発された。

CRISPR-Cas9ゲノム編集細胞モデルとは
自己免疫であるCRISPR-Cas9は、元々細菌がウイルスの侵入を排除するために備わっている機能である。このシステムを応用し開発された遺伝子改変術を用いて、目的の遺伝子のDNAを切断、任意の配列を挿入、置換、欠失するなど、がん細胞のDNAを直接編集することで作成された実験細胞モデルを指す。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

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