悪性リンパ腫の大規模ゲノム解析で単一遺伝子疾患型の可能性が示唆ー理化学研究所らー


  • [公開日]2022.09.06
  • [最終更新日]2022.09.06

9月6日、理化学研究所は、悪性リンパ腫患者2,000人以上に対する大規模ゲノム解析の結果、ある1つの遺伝子の配列の違いによって疾患を発症する単一遺伝子疾患型が存在する可能性を明らかにし、疾患発症リスクに関連する病的バリアントを同定したと発表した。

この研究成果は、理化学研究所(以下、理研)生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの碓井喜明特別研究員らの共同研究グループによるもので、科学雑誌「Cancer Science」オンライン版に9月6日付で掲載されている。

今回の大規模ゲノム解析は、バイオバンク・ジャパンにより収集された悪性リンパ腫患者(N=2,066人)の血液検体を用いて行われた。理研が開発したゲノム解析手法を使用し、乳がん、前立腺がん、膵がんなどの固形がんの発症に関連する遺伝性腫瘍関連遺伝子27種類について、対照群である非がん患者(N=38,153人)のデータと合わせてDNA解析を行ったという。

同研究が行われた背景として、悪性リンパ腫は血液がんの中で最も罹患数の多い疾患であり、約70種類の病理組織型が存在する。その分類を基に適した治療の選択や予後予測、医療技術の進歩により、悪性リンパ腫患者の予後は改善している。一方で、悪性リンパ腫患者の一部における発症の原因は遺伝的要因と考えられているものの、大規模なゲノムデータ解析は少なく、遺伝的要因を有する悪性リンパ腫の分類は確立されていない。遺伝的要因が明らかになることで、原因遺伝子への治療法や発症予防、診断精度の向上が期待できるため、今回の大規模ゲノム解析が実施された。

同解析の結果、4,850種類の遺伝子バリアントが発見され、そのうち309種類が病的バリアントであることが明らかになった。また、悪性リンパ腫の発症リスクと病的バリアントの関連性を解析し、BRCA1、BRCA2、ATM、TP53の4種類の遺伝子を同定した。これらの遺伝子に病的バリアントを認めた患者は、悪性リンパ腫群で1.6%であり、いずれの遺伝子においても対照群と比較して悪性リンパ腫群での保持率が高いこと、病的バリアントを有する悪性リンパ腫患者は、非保持の悪性リンパ腫患者と比較し、卵巣がんや乳がんの家族歴を持つ割合が多いことが明らかになった。


(画像はリリースより)

悪性リンパ腫の病理組織型に対する病的バリアントの影響を評価した結果、マントル細胞リンパ腫において9.1%の患者が病的バリアントを保持していた。このことより、マントル細胞リンパ腫では遺伝子の1か所のみ配列が異なることで発症する単一遺伝子疾患型が存在している可能性が示唆された。


(画像はリリースより)

今後の展望について、リリースでは「悪性リンパ腫の分類や診療ガイドラインに貢献し、診断の精度向上や原因遺伝子への治療法開発など、悪性リンパ腫のゲノム個別医療体制の構築に寄与するものと期待できます」と述べられている。

悪性リンパ腫とは
悪性リンパ腫とは、血液細胞内のリンパ球ががん化したものである。約70種類のさまざまな病理組織系が存在し、代表的なものとしては、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞B細胞性リンパ腫、ホジキンリンパ腫などが挙げられる。

マントル細胞リンパ腫とは
悪性リンパ腫の1つであるマントル細胞リンパ腫は、リンパ節のマントル層を構成するB細胞と同じ形質を持つ異常な細胞が増殖するもの。国内においては悪性リンパ腫の約2%を占める。

遺伝子バリアントとは
ヒトのDNA配列は約30億の塩基対から構成されており、その配列の個々人における違いを遺伝子バリアントという。その遺伝子バリアントのうち疾患の発症に関連するものを病的バリアントという。

参照元:
理化学研究所 プレスリリース

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