プレシジョンオンコロジーの更なる発展を目指したデータベース構築ICGC-ARGOの取り組み


  • [公開日]2022.09.27
  • [最終更新日]2022.09.26

SCRUM-Japan*1の二大プロジェクトのひとつであるMONSTAR-SCREEN*2は、2021年2月から国際がんゲノムプロジェクトICGC-ARGOに参加している。この取り組みについて、日本人初となるICGC-ARGO のexecutive boardメンバーであり、MONSTAR-SCREEN 研究代表者でもある吉野孝之先生(国立がん研究センター東病院 消化管内科長)が、ARO協議会第9回学術集会(2022年9月16-17日開催)にて講演した。このプロジェクトは、がん治療のどのような未来を見据え、現在どのような活動をしているのだろうか。

国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)は、2007年に設立され、もともとは“Science Impact”を作ることを目的に、大規模なゲノムのデータベースを構築し、広く研究者にデータを提供してきた。一方で、これまでICGCの弱点であった臨床データの収集を克服し、より患者さんの治療に直結するデータベースを作るべく、2019年に “Health Impact”に力点を置いたICGC-ARGOという次期プロジェクトが立ち上がった。同プロジェクトでは10万症例の全ゲノムデータに加え、臨床・病理情報を収集し、革新的治療・予防法の開発や治療抵抗性の分子機構の解明することを目指している。

現時点で既にがん種横断的な約63000人の患者情報が集積しているという。また吉野先生自ら、ICGC-ARGOに登録されている26のプロジェクトのリーダーへ個別にインタビューを実施するなど、精力的に活動を進めているという。更には、医学誌「Lancet Oncology」とのコラボレーションとして、ICGC-ARGOの特集企画も近く予定されており、既に世界的なインパクトを誇るプロジェクトであることが伺われる。

また、ICGC-ARGOに質の高いデータベースを有した日本のMONSTAR-SCREENが参入することで日本のプレゼンスを高める狙いもある、と吉野先生は語る。日本が臨床のデータベースの中心として機能することで、グローバル企業の中で日本がリーダーシップを取っていく、そのきっかけとしてICGC-ARGOでの日本の活躍が期待される。

吉野先生が考えるこれからのがん治療開発の方向性は、以下の2点であるという。

①進行再発期にとどまらず、周術期や早期の目に見えない腫瘍を対象とした個別化治療を展開し、治癒や予防の可能性を高めていくこと
②ゲノム解析だけでなく、DNA・RNA・タンパク質・腸内マイクロバイオームなどのマルチオミクスデータの収集と、大量のデータ解析のためのAI技術を導入すること

吉野先生は、「これらの実現によりプレシジョンオンコロジーを更に発展させていくとともに、全国の仲間と共に世界における日本のポジションを築いていきたい、その活動の一つがICGC-ARGOであると考えている」と講演を締めくくった。

国を超えたリーダーシップ、フレンドシップを大切にしながら、昼夜問わず世界中の研究者とディスカッションを重ねる吉野先生を中心に、日本がプレシジョンオンコロジー領域における国際的リーダーとして活躍し、そして一日も早く研究成果が患者さんに届くことを願うばかりである。

*1 SCRUM-Japan
2013年に開始した希少肺がんの遺伝子スクリーニングネットワーク「LC-SCRUM-Japan」(現:LC-SCRUM-Asia)と、翌2014年に開始した大腸がんの遺伝子スクリーニングネットワーク「GI-SCREEN-Japan」(現:MONSTAR-SCREEN)が統合してできた日本初の産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト。

*2 MONSTAR-SCREEN
広範な固形がん患者を対象とした産学連携がんゲノムスクリーニングプロジェクト。がん組織だけでなく、血液を用いた遺伝子解析(リキッドバイオプシー)、糞便を用いた腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の検査・解析などを行い、一人ひとりにとって最適な治療法の選択および新たな治療法の確立を目指している。

参考
hARO協議会 ウェブサイト
国立がん研究センター SCRUM- Japan ウェブサイト

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