6月28日、国立がん研究センターは、脳腫瘍の中で最も悪性度の高い初発膠芽腫患者を対象に、糖尿病治療薬であるメトホルミンと抗がん剤テモゾロミドの併用療法の有効性と安全性を検証する第2相医師主導臨床試験を中央病院など5施設で開始したと発表した。
膠芽腫は、急速に言葉の障害や手足の麻痺が進む悪性脳腫瘍で、年間の罹患者数は2200人程度と希少がんである。膠芽腫の標準治療では、手術後に放射線治療とテモゾロミドを用いた薬剤療法が行われるが、難治性のがんであり、新たな治療選択肢の開発が進みにくい現状がある。
これまでに山形大学と国立がん研究センター中央病院の研究チームは、がん幹細胞内にあるFOXO3という分子が活性化されると、がん幹細胞は再発不可能な細胞に変化するということを確認し、メトホルミンが持つFOXO3活性化能に着目して基礎研究を進めた。その結果、メトホルミンが膠芽腫のがん幹細胞の腫瘍形成能を喪失させる可能性が示唆された。
しかし、メトホルミンは薬価が90.9円と安価であり、後発品も多数あるため、多額の資金が必要な抗がん剤としての開発に対して、企業の協力が得られなかったという。そのため、医師主導で臨床試験を計画し、2020年度AMEDの革新的がん医療実用化研究事業において、今回の試験である「がん幹細胞を標的とした初発膠芽腫の放射線+テモゾロミド+メトホルミン併用療法の第I・II相臨床試験(研究代表者 成田善孝)」が採択された。その後、2021年3月より先進医療Bとして、安全性を検証する第1相試験を実施。その安全性が確認されたため、第2相試験を実施するに至ったとしている。
今回の第2相試験は、20~75歳の初発膠芽腫患者のうち、初期治療として放射線+テモゾロミド療法が実施された患者を対象に、手術にて腫瘍摘出後にメトホルミン500mgを7日間内服、その後維持療法としてテモゾロミド+メトホルミン2250mg併用療法を6サイクル実施し、その後1年間はメトホルミン単剤療法を実施する。主要評価項目は、用量制限毒性発現割合とプロトコール完遂割合であり、副次評価項目は、有害事象発現割合、プロトコール治療完遂割合、6ヶ月・12ヶ月後の無増悪生存率、全生存期間、奏効率である。予定登録患者数は15人で、これまでに実施された第1相試験と合わせ、22人の患者を登録予定である。
(画像はリリースより)研究チームは、リリースにて「膠芽腫に対するメトホルミンの有用性が明らかとなれば、患者さんにとって新たな治療法の選択肢となり、また医療費も安く抑えられることとなります」と期待を述べている。
先進医療Bとは 先進医療は保険診療として認められていない医療技術のうち、厚生労働大臣にて、保険診療とすべきかどうかの評価が必要と判断された治療法(評価療養)のひとつ。効果や安全性を科学的に確かめる段階の高度な医療技術であり、実施できる医療機関が定められている。先進医療Bは未承認の治療法を含む、または未承認の治療法を含まない場合でも臨床試験として、安全性および有効性の評価が必要とされる治療法。また、保険外併用療養費制度により保険診療との併用が認められている。
がん幹細胞とは がん幹細胞は、新たに腫瘍を形成する能力をもち、放射線や抗がん剤に対する抵抗性が高く、治療後も残存し再発の原因になると考えられている。
参照元:国立がん研究センター プレスリリース