HER2陽性大腸がんに対する抗HER2抗体ペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法、従来の抗がん剤に比べて優れた有効性がある可能性ー国立がん研究センターー


  • [公開日]2021.11.22
  • [最終更新日]2021.11.22

11月12日、国立がん研究センター東病院は、HER2陽性大腸がんを対象に抗HER2抗体であるペルツズマブとトラスツズマブ併用療法安全性有効性を評価した第2相医師主導治験(TRIUMPH試験、EPOC1602)の結果を発表した。この試験は国立がん研究センター東病院を中心に北海道大学、愛知県がんセンターなど全国7施設で実施された。

HER2陽性大腸がんは、大腸がんの2~3%と希少なサブタイプであり、承認薬の存在しないアンメットメディカルニーズの高い疾患である。東病院は、SCRUM-Japanを設立し、消化器がんに対して腫瘍組織遺伝子パネル検査を行うGI-SCREEN-Japanを実施、さらに進行性消化器がんに対してリキッドバイオプシーとして血液を解析するスクリーニングプロジェクトであるGOZILA Studyを米Guardant Health社と共同研究を行っている。

TRIUMPH試験では、まず治療抵抗性の治癒接辞不能な進行/再発HER2陽性大腸がん患者のスクリーニングとして、腫瘍組織遺伝子パネル検査とリキッドバイオプシーを実施。腫瘍組織遺伝子パネル検査はIHC/FISH法を実施(N=147人)し、リキッドバイオプシーはGuardant360(N=1107人)が用いられ、そのうちHER2陽性大腸がん患者と診断された患者(N=30人、内訳は腫瘍組織遺伝子パネル検査27人、リキッドバイオプシー25人)にペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法が実施された。


(画像はリリースより)

ペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法の部分奏効以上の奏効割合は、腫瘍組織遺伝子パネル検査でHER2陽性を認めた患者で30%(N=8/27人)、リキッドバイオプシーでHER2陽性を認めた患者で28%(N=7/25人)であり、事前に設定した有効性評価基準を上回った。また、SCRUM-Japanに登録されたHER2陽性大腸がん患者のうち、TRIUMPH試験と同じ基準を満たした患者(N=13人)では、抗がん剤治療による腫瘍の縮小効果は認められなかったことから、治療抵抗性のHER2陽性大腸がん患者の治療薬として、従来の抗がん剤と比較して優れた有効性がある可能性が示された。


(画像はリリースより)

(画像はリリースより)

また、治療開始3週間後のリキッドバイオプシーを解析した結果、治療開始前と比較して血中循環腫瘍DNActDNA)が減少している患者において、ペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法の有効性が高いことが判明。これにより、リキッドバイオプシーを繰り返し実施することで有効性を予測できる可能性が示唆された。


(画像はリリースより)

さらに治療に抵抗性を示した際のリキッドバイオプシーを解析し、KRAS・NRAS変異、MET遺伝子、FGFR1遺伝子、PIK3CA遺伝子などの複数のがんゲノム異常が新たに出現していることも明らかになった。今後はこれらのゲノム異常を考慮することで、HER2陽性大腸がんの治療をより改善できる可能性が考えられるという。

国立がん研究センター東病院消化管内科 臨床研究支援部門トランスレーショナルリサーチ支援室の中村能章氏は、「製薬企業が積極的に取り組みにくい希少なサブタイプに対して有効な治療を開発するため、SCRUM-Japanの基盤を活用してスクリーニングプラットフォームの構築や医師主導治験の実施に積極的に取り組んできました。今後も一人でも多くの患者さんが最善の治療を受けられるよう、がん個別化治療の実現を目指してまいります」と述べている。

なお、ペルツズマブ/トラスツズマブ併用療法については、この研究成果に基づき、中外製薬株式会社がHER2陽性大腸がんとして2021年4月に承認申請を実施している。

IHC法/FISH法とは
IHCはimmunohistochemistryの略語であり、免疫組織化学的染色である。抗体を用いて、組織標本中の抗原(タンパク)を検出する方法。FISHは、fluorescence in situ hybridizationの略語であり、蛍光物質や酵素などで標識したオリゴヌクレオチドプローブを用い、目的の遺伝子と交雑させて蛍光顕微鏡で遺伝子異常を検出する方法。

Guardant360とは
血液中の循環腫瘍DNAを解析することで、がんゲノム異常を検出するリキッドバイオプシー(液体生検)検査。がんに関連した74遺伝子を調べることが可能。

血中循環腫瘍DNA(ctDNA)とは
血液中にごく微量に存在するがん由来の DNA (ctDNAはcirculating tumor DNAの略称)。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

×

リサーチのお願い


この記事に利益相反はありません。

会員登録 ログイン