2021年10月28日、医学誌『JAMA Oncology』にて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患したがん患者の死亡率、有害事象発症率をリアルワールドEHR(電子カルテ)より検証したコホート試験の結果がThe University of Texas MD Anderson Cancer CenterのMariana Chavez-MacGregor氏らにより公表された。
本試験は、2020年1月1日から12月31日までの期間、米国にて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された患者(N=507,307人)を対象にして、 非がん患者(97.2%、N=493,020人)、直近で治療歴のないがん患者(がん患者の69.9%、N=9,991人)、3ヶ月以内に治療歴のあるがん患者(がん患者の30.1%、N=4,296人)の3つのコホートに分け、評価項目として新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診断より30日以内の死亡率、人工呼吸器使用率、ICU使用率、入院期間等を検証したコホート試験である。
本試験が開始された背景として、がん患者はそうでない患者に比べて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患リスクが高率であり、その経過はより重篤な結果になり得る可能性が示唆されている。しかしながら、このような知見は小規模な臨床試験より示唆された結果であり、がんの種類、治療期間等の因子により異なる結果が得られる。以上の背景より、大規模のリアルワールドEHR(電子カルテ)を対象にした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患したがん患者の経過を検証する目的で本試験が開始された。
本試験に登録された507,307人の患者背景は下記の通りである。年齡中央値は48.4歳。性別は女性55.4%。患者の内訳は非がん患者97.2%、がん患者2.8%。3ヶ月以内に治療を行ったがん患者の治療歴は、放射線療法、全身療法である。以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。
患者背景調整前分析の結果、死亡率は非がん患者の1.6%に対して直近で治療歴のないがん患者で5.0%、3ヶ月以内に治療歴のあるがん患者で7.8%と、治療歴の有無に関わらず新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患したがん患者の死亡率は高率であった。
患者背景等調整後の結果、直近で治療歴のないがん患者の死亡率オッズ比は、非がん患者に比較して0.93(95%信頼区間:0.84-1.02)、人工呼吸器使用率オッズ比は0.61(95%信頼区間:0.54-0.68)を示し、非がん患者とリスクは同等であった。
一方、3ヶ月以内に治療歴のあるがん患者の死亡率オッズ比は、非がん患者と比較して1.74(95%信頼区間:1.54-1.96)、ICU使用率オッズ比は1.69(95%信頼区間:1.54-1.87)、入院率オッズ比は1.19(95%信頼区間:1.11-1.27)を示し、非がん患者よりもリスクが高率であった。
以上のコホート試験の結果よりMariana Chavez-MacGregor氏らは「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した患者のうち、3ヶ月以内にがん治療歴のある患者は非がん患者、3ヶ月以内にがん治療のないがん患者に比べて死亡率等が高率である可能性が示唆されました」と結論を述べている。
Evaluation of COVID-19 Mortality and Adverse Outcomes in US Patients With or Without Cancer(JAMA Oncol. 2021 Oct 28. doi: 10.1001/jamaoncol.2021.5148.)