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食道扁平上皮がんの全ゲノム解析で日本人における特徴的な発がんメカニズムが明らかに

[公開日] 2021.11.01[最終更新日] 2021.11.01

10月27日、国立がん研究センター研究所は、英サンガー研究所やWHO国際がん研究機構と共同で行った、食道がんの発症頻度が異なる8ヶ国における全ゲノム解析の結果を発表した。

食道がんは世界で6番目に多いがんであり、発症頻度は地域によって大きく異なると言われている。日本では、食道がんの中でも扁平上皮がんの発症頻度がもっとも高く、9割以上を占めている。過去の疫学的研究から、食道扁平上皮がんの好発地域は東アジア、中央アジアから中近東、東アフリカであり、発症のリスク因子としては喫煙と飲酒のほか、大気汚染や熱い飲み物などの刺激物などが関連していると報告されているが、地域ごとの食道扁平上皮がんの発生頻度の違いは十分に解明できていなかった。

今回の研究が行われた目的は、人種や生活習慣の違う地域ごとに発症頻度が異なる原因を、がんドライバー遺伝子や変異シグネチャーを同定することで解明し、全世界における食道扁平上皮がんの新たな予防戦略を進めることである。

研究の方法は、日本を含む8ヶ国から計552症例を集め、全ゲノム解析データから突然変異を検出、変異シグネチャーを検出した後に各サンプルの変異シグネチャーの量を測定することで地域や臨床背景によって変異シグネチャーの分布に差があるかを評価した。また、全症例からドライバー遺伝子を同定し、突然変異と変異シグネチャーとの県連についても検討した。なお、症例数の内訳は日本37例、中国138例、イラン178例、英国7例、ケニア68例、タンザニア35例、マラウイ59例、ブラジル30例である。

これらゲノム、変異シグネチャーの国際比較から得た結果として、発症頻度が異なる地域ごとにみると変異数やパターンに大きな差はないものの、日本とブラジルの症例では、飲酒関連変異シグネチャーであるSBS16が統計学的有意に多かった。


画像はリリースより

また、がんドライバー遺伝子解析結果からは38種類のドライバー遺伝子が同定でき、過去の研究でも報告されていた遺伝子も含まれていた。さらに変異シグネチャーとの関連についても検討し、飲酒歴のある症例ではSBS16がTP53遺伝子変異に多く見られることが分かった。

さらに、変異シグネチャーと遺伝子多型との関連性についても検討したところ、アルコールを分解する際の重要な酵素であるALDH2遺伝子のSNP(遺伝子多型)とSBS16が有意に相関すると発表された。また、BRCA遺伝子(乳がんや卵巣がんの原因遺伝子)の変異と変異シグネチャーであるSBS3にも相関があることが明らかになった。これにより、食道扁平上皮がんの発症には遺伝的要素も関連していることが示唆された。


画像はリリースより

これらの研究結果について、国立がん研究センターはプレスリリースにて「この結果を日本における食道がんの新たな予防法開発に応用するためには、飲酒に伴う変異誘発機構を解き明かす必要があり、今後も研究を進めていく予定です」と述べている。また、食道がんについては、前がん病変を含めたさまざまな正常組織における遺伝子変異についても解析を開始しており、同施設も研究に協力する予定としている。

なお、同研究については英国専門誌「Nature Genetics」にて公表された。

変異シグネチャーとは がんは正常細胞のゲノム異常が蓄積することによって発症すると言われており、突然変異は一定のパターンで起こると分かってきた。このパターンを変異シグネチャーと呼ぶ。中でも点変異のシグネチャーはSingle Base Substitution Signature(SBS)と言われている。これまでに50種類以上の変異シグネチャーがあることが報告されているが3分の1はゲノム修復の異常、3分の1は環境要因、3分の1は原因が解明されていない。

がんドライバー遺伝子とは 異常を起こしてがんを発生したり、進行させる遺伝子の総称。がん細胞の増殖・転移を促進する「がん遺伝子」と抑制する「がん抑制遺伝子」がある。現在ゲノム医療では、がんドライバー遺伝子を診断するパネル遺伝子診断や、遺伝子に特異的に作用する分子標的薬治療が用いられる。

ALDH2遺伝子とは ALDH2(アルデヒドデヒドロゲナーゼ2)は、飲酒後のエタノールが代謝されて生成されるアセトアルデヒドを酢酸へと代謝し、無毒化する酵素である。アセトアルデヒドには発がん性があると言われている。ALDH2酵素には酵素活性に大きな差を来す遺伝的な多型 (SNP)があることが知られており、飲酒習慣へ影響を及ぼす。

BRCA (breast cancer susceptibility gene) 遺伝子とは 遺伝性乳がんや卵巣がんの原因遺伝子として知られるがん抑制遺伝子。前立腺がんや膵がんの発症リスクとも関連することが知られている。BRCAタンパクはDNA修復に関与しており、その異常によって染色体の構造異常やSBS3シグネチャーの原因として知られる突然変異を誘発する。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース
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