2020年12月9日~12日に開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Immuno Oncology)にて外科切除後の再発リスクの高い筋層浸潤尿路上皮がん患者に対するアジュバント(術後)療法としての抗PD-L1抗体であるテセントリク(一般名:アテゾリズマブ、以下テセントリク)単剤療法の有効性、安全性を比較検証した第3相のIMvigor010試験(NCT02450331)のctDNA(circulating tumor DNA=血液循環腫瘍DNA)による探索的解析の結果が公表された。
IMvigor010試験とは、外科切除後の再発リスクの高い筋層浸潤尿路上皮がん患者に対するアジュバント(術後)療法としてテセントリク単剤療法を投与する群、または経過観察を実施する群に無作為に振り分け、主要評価項目として無病生存期間(DFS)、副次評価項目として全生存期間(OS)などを比較検証したオープンラベルランダム化多施設共同の第3相試験である。なお、581人の患者に対してctDNA評価が実施されて、その結果は214人の患者がctDNA陽性、367人の患者がctDNA陰性群であった。
本試験が開始された背景として、筋層浸潤尿路上皮がんの治療は再発、転移リスクを減少させるために早期介入が重要である。腫瘍の成長、死にかけている細胞の新しい細胞への置き換わり時に血液に放出される腫瘍DNAであるctDNAはアジュバント(術後)療法から治療恩恵を受ける患者とそうでない患者を選別できる可能性が示唆されている。以上の背景より、IMvigor010試験の探索的解析としてctDNA評価が実施された。
本試験の結果、ctDNA陽性群(N=214人)における主要評価項目である無病生存期間(DFS)は下記の通りである。テセントリク単剤群5.9ヶ月に対して経過観察群4.4ヶ月、テセントリク単剤群でがんの再発または死亡(DFS)のリスクを42%(HR:0.58、95%信頼区間:0.43–0.79、p=0.0005)減少した。一方、ctDNA陰性群(N=367人)ではテセントリク単剤群でがんの再発または死亡(DFS)のリスクを14%(HR:1.14、95%信頼区間:0.81–1.62、p=0.45)増加した。(参照元:Roche Newsroom)
副次評価項目である全生存期間(OS)中央値はテセントリク単剤群25.8ヶ月(95%信頼区間:20.5ヶ月–未到達)に対して経過観察群15.8ヶ月(95%信頼区間:10.5–19.7ヶ月)、テセントリク単剤群で死亡(OS)のリスクを41%(HR:0.59、95%信頼区間:0.41–0.86、p=0.0059)減少した。一方、ctDNA陰性群(N=367人)ではテセントリク単剤群で死亡(OS)のリスクを31%(HR:1.31、95%信頼区間:0.77–2.23、p=0.32)増加した。
以上のIMvigor010試験のctDNAによる探索的解析の結果より、ロシュ社のChief Medical Officer and Head of Global Product DevelopmentであるLevi Garraway氏は「膀胱がんは複雑なバイオロジーを有しており、治療困難ながんの1つです。しかしながら、ctDNAをはじめ有効的なバイオマーカーを確立することで効果的な治療方法を発見することができるでしょう」と結論を述べている。
Clinical outcomes in post-operative ctDNA-positive muscle-invasive urothelial carcinoma (MIUC) patients after atezolizumab adjuvant therapy(ESMO Immuno-Oncology Virtual Congress 2020,Abstract10)