患者さんが納得できる治療実現に向けたガイドラインの役割第41回肺がん医療向上委員会 WEBセミナー


  • [公開日]2023.03.29
  • [最終更新日]2023.03.29

3月24日、肺がん医療向上委員会主催のセミナーがオンラインにて開催された。今回はガイドラインに焦点を当てた、90分に渡る講演・ディスカッションが行われた。

まず滝口 裕一先生(ガイドライン検討委員会 委員長/千葉大学大学院医学研究院臨床腫瘍学)は、ガイドラインは医療を強制するものではなく参考資料としての位置付けであり、治療方針は個々の患者さん に応じて決定されるものであることに言及。また、がん治療の主役である患者さんの視点を取り入れるために、患者委員が作成メンバーに加わることになっている。ただし、成果に結びつけるためには課題も残されており、次の6月のセミナーでも「患者委員のガイドラインへの関わり」に関して議論される予定だとコメントした。

滝口氏によると、ガイドラインに対して、最新の情報や学会で話題となったデータが反映されていないこと、同じ病態に対して複数の治療法が推奨されているため最適な治療が分からないこと、が指摘として挙がっている とのこと。前者に関しては、ガイドライン改訂に使われるのは前年の11月までのデータであり、そこから1年かけて最終原稿を作っていく過程を説明。また後者に関しては、個々の治療法の推奨度とエビデンスの強さを参考にしながら、患者さんの状況に応じて決めていくべきであるとコメントした。

最後に、日本肺癌学会のWebサイトには、セミナーや講演会など様々な情報が載っているため、ぜひ一般の方々にも見てほしいと呼びかけて講演を締めくくった。

清水 秀文先生(患者向けガイドライン委員会副委員)は、患者さん向けガイドラインとして「患者さんのための肺がんガイドブック」を紹介。ガイドブックの活用のしどころは主に3つある、と清水先生は言う。

一つ目は診断・治療に関する基本的な知識の取得。ガイドブックが患者さんの診断や治療への理解の手助けとなるため、診察室での限られた時間の中で、科学的な内容以外のことまで話し合う時間ができる。その結果、患者さん個々の状況や希望・価値観に基づいたEBM(Evidence-Based Medicine、根拠に基づく医療)が可能となり、シェアードディシジョンメイキング(共同意思決定)が実現すると説明された。

二つ目は、医師が言わない、聞きづらい情報の取得。患者さんの病気との付き合い方・置かれた状況(ペイシェントジャーニー)に応じて、どこから読んでも理解しやすいスタイルが意識されているとのこと。更には、家庭の状況・経済状況・就労・価値観まで考慮に入れたQ&Aも記載されていることが強調された。Q&Aの構成内容として、就労や経済面の疑問など「その他」に分類されるような項目が多いことは肺がんの特徴である、と清水先生。他にも、医師とのコミュニケーションや患者会、アピアランスケアなど多岐に渡る話題が含まれているとのことであった。

三つ目は、情報取得の入り口。根拠のない情報を信じてしまうこと を避けるためには、正しい情報源の重要性を強調。ガイドブックの中には、更なる情報収集のためのポイントや外部情報へのリンク先も示されているとのことであった。

ガイドブックの冊子版は、今年の12月改訂に向けて、他のがん種での工夫を取り入れながら作成が進められている。その中で清水先生は、ガイドラインを活用していく中で改善点や要望などがあれば、是非意見を寄せてほしいと、と講演の最後に呼びかけた。

ディスカッションの中で、患者会代表の長谷川 一男氏(NPO法人肺がん患者の会ワンステップ)は、患者の意思決定についてコメントした。患者側は複数提示された選択肢の中から治療法を決めることで、“自分の選択”であることを実感でき、治療の効果の有無に関わらず納得できることにつながるとのこと。長谷川氏によると、ディシジョン(意志決定)とはそもそも複数のものから選択肢を絞ることを意味する単語であり、例え最適な治療が一つに決まっているケースでも、まずはどのような選択肢があるのか、そこからどのような理由で治療方針の決定に結びついたのか、などの説明があることが大切であると強調した。

これに対し、外科医である鈴木 実先生(肺がん医療向上委員会委員長)は、「外科医のところにくる患者さんは手術を前提としているが、改めて放射線療法や薬物療法の選択肢も説明することで、手術以外の選択肢についても患者さんの意志に基づいて考え直すきっかけになっている」とコメントした。清水先生は、患者側から他の選択肢について質問を受けながら話し合いを重ねるケースもあることに言及し、これこそがシェアードディシジョンメイキングであると語った。

また、肺がんのガイドブックのQ&Aに「その他」の項目が多い特徴に関する一つの例として、緩和ケアは治療の初期から実施していくものであることの記載が挙げられた。緩和ケアは終末期のものであるという患者さんのイメージからくる不安を取り除くためにガイドブックが重要であるとのことである。

更には、時間がない診断時の説明の中でつい抜け落ちがちな家庭や仕事の話、またなかなか踏み込んで聞きづらい経済的な面に関しては、最初にガイドブックを手に取ってもらいたいと、ガイドブックの使い所について清水氏は改めて語った。

ガイドブックは現在、冊子版とWeb版の両方があるが、ガイドラインの動画説明へのニーズが視聴者から寄せられた。これに関しては、肺がん医療向上委員会でも以前に説明動画を作成していた経験を踏まえ、コストや時間、話し手の主観が入らないような公平性の担保などを考慮しながら、今後検討されていくようである。

【プログラム】
<Opening Remarks>
司会:鈴木 実(肺がん医療向上委員会 委員長)
<講演>
「肺癌診療ガイドライン」の特徴と課題 – 改訂版のトピックスも含めて –
演者:滝口 裕一(ガイドライン検討委員会 委員長/千葉大学大学院医学研究院臨床腫瘍学)
<講演>
「患者さんのための肺がんガイドブック」を活用してみよう
演者:清水 秀文(患者向けガイドライン委員会 副委員長 / JCHO 東京新宿メディカルセンター)
<総合討論> 
ファシリテーター:
小栗 鉄也(肺がん医療向上委員会副委員長)
パネリスト:
滝口 裕一(ガイドライン検討委員会委員長)
清水 秀文(患者向けガイドライン委員会副委員長)
長谷川 一男(NPO法人肺がん患者の会ワンステップ)
鈴木 実(肺がん医療向上委員会委員長)
<Closing Remarks>
司会: 鈴木 実(肺がん医療向上委員会 委員長)

■参考
肺がん医療向上委員会 第41回肺がん医療向上委員会 WEBセミナー

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