世界最大の胃がんゲノム解析でびまん型胃がんの発症要因などを同定~予防・治療法開発へ向け前進~-国立がん研究センターら-


  • [公開日]2023.03.15
  • [最終更新日]2023.03.15

国立がん研究センター研究所のがんゲノミクス研究分野分野長の柴田龍弘氏を中心とする国際共同研究チームは、世界最大となる胃がんゲノム解析を実施。3月14日に記者会見を開催し、研究結果を発表した。なお、今回の研究成果は、米国科学雑誌「Nature Genetics」に、現地時間3月13日付で掲載されている。

日本における胃がんは、罹患者数(2019年)と死亡数(2021年)がいずれも3位と上位に位置している。柴田氏によると、特にスキルス胃がんに代表されるびまん型については、予後不良でありながら未だ原因が明らかになっておらず、治療薬開発や予防に向けた研究が望まれている。

このような背景を踏まえ、今回日本人胃がん症例697症例を含む総計1,457症例の手術検体を使った世界最大となる胃がんゲノム解析が実施された。なお本研究は、大規模ながんゲノム解析による治療薬開発や発がん要因同定の研究が進められている国際コンソーシアム(国際がんゲノムコンソーシアム:ICGC-ARGO)による国際共同研究の一環として実施された。

今回の研究成果は主に3つのポイントがあげられる。

1つ目は、びまん性胃がんの原因の同定である。変異が起こる場所のパターン(=変異シグネチャー)は、紫外線や喫煙など発がん要因によって決まっているが、びまん性胃がん・東アジア人種では、飲酒に関連した変異シグネチャーとして「Sig16」が同定されたとのこと。このSig16は、特にアルコールを代謝しにくい体質と相関があることが示された。


(画像はリリースより)

さらに、この変異シグネチャーSig16が発生すると、びまん性胃がんに特徴的なドライバー遺伝子変異(RHOA遺伝子変異)が誘発され、がんの発症につながっている可能性が示唆された。

今回の研究結果をもとに、今後、詳細な発がんの機序を解明することで、予後不良とされるびまん型胃がんの予防につなげていきたい、と柴田氏はコメントした。

2つ目の研究成果は、胃がんにおけるドライバー遺伝子の網羅的な解析により、米国TCGA(The Cancer Genome Atlas)の過去の報告25個と比較しても多い、75個のドライバー遺伝子を同定したことである。

また、がん抑制遺伝子であるCDH1遺伝子のスプライシング異常が、びまん型胃がんに特徴的に見られた。CDH1は通常二量体として機能するが、そのどちらかが変異産物であると、もう一方の正常体の機能をも阻害してしまう(=ドミナントネガティブとして作用する)可能性も示されたと言う。

今回の解析において、すでに臨床で使用可能な治療薬がある症例は全体の約1割に留まったが、今回同定された遺伝子異常が新たな治療標的として有望である、と柴田氏は述べた。

3つ目の研究成果は、免疫療法バイオマーカーの同定である。遺伝子変異数が多い胃がん症例の約7割において、免疫療法に重要とされている遺伝子群の異常が見つかった。また、既知の胃がんのドライバー遺伝子変異自体が、免疫抑制性の環境を作り出している可能性が示唆された。

この結果を受けて柴田氏は、特定の遺伝子異常と免疫状態との相関が明らかとなったことで、胃がんにおける免疫治療の新たなバイオマーカー探索に役立つものであることに言及した。

これらの研究結果は、予防や治療法開発にすぐにつながるものではないものの、更に研究を進めることにより、これまで原因不明であったびまん性胃がんの予防、更にはびまん性胃がんを含む胃がんの新たな治療薬やバイオマーカーの開発に貢献し得るものである、と柴田氏は期待を語った。

参考:
国立がん研究センター プレスリリース

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