治療だけが目的ではない、日常生活との両立の実現に向けてJSCO 2022


  • [公開日]2022.11.04
  • [最終更新日]2022.11.01

10月20〜22日に第60回日本癌治療学会学術集会(JSCO 2022)が、神戸コンベンションセンターにて開催された。現地を主体としたハイブリッド形式であったが、当日多くの参加者が現地に集まった。

その中から、「周術期ICIへの期待と、生活との両立を意識したマネージメント」と題した池田慧氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科)の講演を取り上げる。

進行期から開発が進められてきた薬物療法が、今や周術期にまで参入し、薬物療法の対象患者像が多様化している。また、周術期の症例は、生活に制限のある状態と健康体の中間層であり、治療を続けながらがんと長く付き合っていくことが必要だと池田氏は言う。

がんの治療を続けながらも、安心して理想の日常生活を続けるために重要なことは何だろうか。

– 術後補助療法のインフォームドコンセント(IC)で大切なこと

2020年にアストラゼネカ社が実施した肺がん患者調査において、患者さんが術前から術後にかけて一貫して1番不安に感じているのは再発であり、再発の可能性や術後補助療法に関して詳しく聞いておくべきだったと後から感じるケースも多いことが示されている。一方で、患者さんの術後補助療法に対する認識にはばらつきがあり、医師からの説明の仕方に大きく左右される事実も浮き彫りになった。

術後と言えば、手術を乗り切り完治への期待が最も高まっている時期、そこで初めて術後の治療介入の話をしても受け入れ難い可能性がある。池田氏は、「あくまで術後補助療法までが手術であり、リスクや術後補助療法の重要性について術前の段階から患者さんに意識して考えてもらうことを心がけたい」と強調した。

– 周術期の治療選択で重要なこと

続いて池田氏は、術後の患者さんの仕事や日常生活に焦点を当てた。

宮崎県立延岡病院での術後の復職調査(肺癌 2022. 60:314-318)によると、術後1ヶ月以内の復職率は約3割にとどまる一方、復職に至らなかった症例は14%と報告されている。また、別の調査結果では、治療と仕事の両立において最も問題となるのは、治療の副作用やがんの進行に伴うからだの不調であることが示されている。(Ikeda S. et la. Cancer Med 2020)

治療による副作用を最小限にし、仕事と両立しながら続けられる治療の選択が重要であり、従来の術後化学療法の実施の有無やサイクル数も検討しながら適宜免疫チェックポイント阻害剤(ICI)やチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)レジメンを使用していくことについても言及があった。

また、副作用管理に関しては、ICIの導入によりにさらに難しくなったと池田氏。倦怠感・発熱のような一般的な体調不良から始まるケースがあることや、院内の連携体制の不足などが原因で見逃される懸念もあるという。ICIによる副作用は致死的なものもあるため、管理体制の徹底が重要であると強調された。

もう一つ、患者さんの日常生活で問題となるのが、金銭的な負担である。上述のアストラゼネカ社によるアンケートの中では、治療費が患者さんの不安要素であるにもかかわらず、医師から説明を受けた症例は2割以下との結果が出ている。池田氏は、高額療養費制度についての資材も活用しながら、治療費の負担に関して医師と患者が話し合うことの重要性を述べた。

– 治療しながら日常生活を安心して送るために

最後に、がん患者さんが働きながら治療を続けるために、主治医と職場と支援コーディネーターが連携するトライアングル型支援体制が提案された。そのためには、職場・事業者と医療現場との情報共有が重要であり、システマティックな体制づくりなど課題は多い。しかしこれが実現されることで、経済的負担や仕事への不安のフォローなど、患者さんがニーズに応じた支援を受けることができ、ただ治療することが目的の人生ではなく生活との両立が期待できる。

今後、ますます多くの新薬、治療法の開発が進み、薬物療法の対象患者が増えていくことが予想される。池田氏はがん治療に縛られない個々の患者さんの日常生活を意識した治療マネジメントの重要性を強調し、講演を締めくくった。

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