小児悪性脳腫瘍における新規発症メカニズムの解明と治療開発への期待国立がん研究センターら


  • [公開日]2022.09.28
  • [最終更新日]2022.09.29

9月27日、国立がん研究センターは、小児悪性脳腫瘍のひとつである髄芽腫において、新規の遺伝子異常を発見したと発表。同日、同センター研究所の脳腫瘍連携研究分野の鈴木啓道分野長が「小児悪性脳腫瘍において新規の遺伝子異常を発見~発症メカニズム未解明の髄芽腫の治療開発に向けた基礎研究の大きな一歩~」と題した講演を行った。

髄芽腫は小児の腫瘍の中で最も頻度が高い悪性脳腫瘍であり、その悪性度の高さから、強い治療が必要とされる。そのため、認知機能や内分泌などの神経への毒性や、正常細胞へのダメージからくる二次がんの発症など、長期的な副作用が課題であり、より安全性の高い効果的治療法が求められている。しかしながら、髄芽腫の約60%の症例では、いまだに発生機序が不明であった。

今回の研究で鈴木氏らは、髄芽腫の4つのサブグループ(WNT、SHH、Group 3、Group 4)のうち、特徴的な遺伝子異常が分かっていない集団Group 3、Group 4に対し、遺伝子異常解析を実施。その結果、Group 4の集団において、CBFA複合体を構成する遺伝子群の異常ががん化の原因であることを初めて同定した。また、CBFA複合体は小脳・橋・延髄へと分化する胎児期発達脳における菱脳唇に強く発現しており、その発現はOTX2によって制御されていることを見出した。

図はプレスリリースより

以上の結果より、OTX2およびCBFA複合体(特にCBFA2T2、CBFA2T3)の発現異常によって、菱脳唇における神経細胞の正常な分化が妨げられたことで、本来出生時には消失しているはずの未分化細胞が遺残し、将来的に髄芽腫の原因細胞となると考えられるという。

図はプレスリリースより

今回の研究により神経分化の異常ががん化の原因であることが解明されたため、鈴木氏は、「将来的に神経細胞の分化の制御メカニズムが解明されれば、治療薬開発につながることが期待される」と述べている。また、菱脳唇において分化異常が起きている細胞を非侵襲的にスクリーニングする手段が確立されれば、「がん化に至る前に治療介入が可能になるかもしれない」と、将来的な予防治療の可能性についても言及した。

最後に鈴木氏は、「今回の研究は、国立がん研究センターだけでなく、The Hospital for Sick Children University of Manitoba、Seattle Children’s Research Institute、University of Manitobaをはじめとする非常に多くの研究機関からデータ提供などの協力をいただき、世界中の多くの研究者が共同で研究することによって今回の成果につながった」と講演を締めくくった。

なお、今回の研究内容は、科学誌「 Nature 」に9月21日付で掲載されている。

出典
国立がん研究センター プレスリリース

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