研究背景
不安は最も一般的にみられる精神症状であり、およそ3人に1人が生涯において何らかの不安症と診断されている。 不安は生活の質や社会機能を低下させ、全死亡率を上昇させることにつながる。 がん患者においても、約半数のがんサバイバーが中等度以上の、7%が重度のがん再発不安を抱えていることが様々な研究で示されており、サバイバーシップにおける未だ満たされていないニーズの一つであることが指摘されている。 不安症の治療法には選択的セロトニン再取り込み阻害薬や認知行動療法が用いられるが、前者は鎮静や依存などの副作用が懸念され、後者は治療にかかる時間、費用、そして治療者不足が課題となっている。 身体疾患を抱える人の不安を和らげるための科学的根拠に基づく安全で簡便な対策が求められている。 代表的なオメガ3系脂肪酸には、植物由来のアルファリノレン酸、海洋由来のエイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸が挙げられる。 近年、イワシ・サバ・サンマなど青魚に多く含まれるオメガ3系脂肪酸と不安の関連を調べる研究が多数行われ、オメガ3系脂肪酸の抗不安効果の検討が関心を集めている。 マウスでの実験においても、オメガ3系脂肪酸の比率が高い餌を習慣的に食べさせると、恐怖体験について思い出したときの怖いという感覚(恐怖記憶と呼ぶ)が和らぐことが見出されている。 しかし、これまで報告された臨床研究はサンプル数が少なく、研究によって結果のばらつきが大きく、オメガ3系脂肪酸が不安症状の軽減に効果があるかどうかについて明らかではなかった。研究方法
解析対象
臨床診断 精神:注意欠陥・多動性障害(ADHD)、境界性人格、トゥレット症候群、物質依存、アルツハイマー病、うつ病、強迫症、心的外傷後ストレス障害(PTSD) 身体:事故外傷、パーキンソン病、急性心筋梗塞、月経前症候群 健常:看護師、成人、非喫煙者、高齢者、大学生背景
オメガ3系脂肪酸摂取群(1,203名(日本人179名)、平均年齢 43.7歳、女性 55%) オメガ3系脂肪酸摂取量 平均1,605.7mg/d(225mg – 4074mg) オメガ3系脂肪酸非摂取群(1,037名(日本人183名)、平均年齢 40.6歳、女性 55%)研究結果
メタアナリシスの結果、オメガ3系脂肪酸を摂取した群はオメガ3系脂肪酸を摂取していない群と比較して、不安症状が軽減されることが明らかになった(効果量0.374、95%信頼区間0.081-0.666)(図1)。
また層別化した解析の結果、身体疾患や精神疾患等の臨床診断を抱えている人を対象にした場合に抗不安効果が大きいことが示された(図2)。
図2.臨床診断の有無によるサブグループ解析[/caption]

更にオメガ3系脂肪酸を少なくとも2,000mg摂取してもらった場合に抗不安効果を認めることが示された。
効果量:本研究では独立した2群の差についての効果量を表すHedge gを算出。値の絶対値が大きいほど群間差が大きいことを示す。0.2は小さい、0.5は中くらい、0.8は大きい効果と解釈する。
95%信頼区間:測定の精度を表すもので、信頼区間が狭ければ狭いほど、測定の精度は高くなる。母集団からサンプルを取ってきて、その平均から95%信頼区間を求める、という作業を100回やったときに、95回はその区間の中に母平均が含まれるということを意味する。