リムパーザ(オラパリブ)、がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌の治療薬として適応を拡大


  • [公開日]2018.07.02
  • [最終更新日]2019.03.15

アストラゼネカ株式会社(以下、アストラゼネカ)は、「リムパーザ錠」(300mg1日2回投与)(一般名:オラパリブ、以下、「リムパーザ」)に関して、「がん化学療法治療歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳癌」を適応症とする製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを、2018年7月2日発表した。

乳がん領域における更なるプレシジョン・メディシンの発展

リムパーザは、BRCA遺伝子変異によってDNA損傷応答(DDR)経路に異常をきたしたがん細胞に特異的に作用し、がん細胞死を誘導する世界初の経口ポリアデノシン5’二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤であり、本邦初の遺伝性乳がんの治療薬である。

国際共同第lll相OlympiAD試験において、化学療法群との比較で主要評価項目である無増悪生存期間PFS)を有意に延長し、病勢進行または死亡のリスクを42%低減することが確認された。
リムパーザの処方は、コンパニオン診断プログラムである「BRACAnalysis診断システム」による、生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異の判定結果に基づき決定される。

愛知県がん研究センター中央病院 副院長兼乳腺科部長の岩田広冶氏は次のように述べている。
「リムパーザの臨床導入は、BRCA遺伝子変異に基づく新たなサブタイプの治療概念を定義し、これまでターゲット治療がなかったトリプルネガティブ乳がんやホルモン抵抗性のホルモン受容体陽性乳がんに対して、有益な治療選択枝を獲得しました。リムパーザが、乳がん領域における更なるプレシジョン・メディシンの発展に寄与していくことを期待しています」。

アストラゼネカ研究開発本部長の谷口忠明氏は次のように述べている。
「本年1月に白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法の適応症で承認を取得したリムパーザが、本日、国内初の遺伝性乳がんの治療薬として、新たにBRCA遺伝子変異陽性の再発乳がん患者さんへも治療機会を提供できることとなり大変嬉しく思います。
当社は、がんゲノム医療の考え方を推進することにより、更に多くのがん患者さんの治療に貢献できるよう、今後も全力で研究開発に取り組んでいく所存です」。

アストラゼネカPLC(本社:英国ケンブリッジ)は、リムパーザの研究開発ならびに商業化に関して、2017年7月、メルク・アンド・カンパニー(北米以外ではMSD)との世界的な戦略的提携を発表した。
本提携に基づき、日本においても、アストラゼネカとMSD株式会社はコ・プロモーション契約を締結し、2018年7月1日より協業を開始している。

リムパーザ®について

リムパーザは、FDAが承認した世界初の経口ポリアデノシン5’二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤であり、BRCA変異などのDNA損傷応答(DDR)経路に異常をきたしたがん細胞に特異的に作用し、細胞死を誘導する最初の標的治療薬。

特に、複数のin vitro試験によりリムパーザによる細胞毒性はPARP酵素活性の阻害およびPARP-DNA複合体の生成を増加させる可能性があり、その結果DNA損傷およびがん細胞死が生じることが示されている。

リムパーザは、アストラゼネカのDDRメカニズムを標的とする新薬候補ポートフォリオの基盤となる化合物で、現在、一連のがん種を対象として広範な開発を進めている。
本邦においては、2018年1月に「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」を効能・効果として製造販売承認を取得している。

海外では、同年1月、卵巣がん以外で初めての転移性乳がんの治療薬として米FDAの承認を受け、4月には欧州医薬品庁がHER2陰性転移性乳がん治療薬としての薬事承認申請を受理した。

リムパーザの有効性と安全性

本承認は、生殖細胞系BRCA遺伝子変異陽性転移性乳がんにおけるリムパーザの無作為化試験(OlympiAD試験)の結果に基づいている。

OlympiAD試験において、リムパーザを投与された患者さんでは86.3%(177例/205例)に副作用が認められ、主な副作用は、悪心(50.2%)、貧血(32.2%)、疲労(22.4%)であった。(承認時)

OlympiAD試験は302例の病的変異または病的変異疑いに分類される生殖細胞系列BRCA1またはBRCA2遺伝子変異を有するHER2陰性転移性乳がん患者さんにおけるリムパーザ錠(300mg 1日2回投与)の有効性および安全性を、医師が選択した化学療法(カペシタビン、ビノレルビンもしくはエリブリンのいずれか1つを選択)と比較検討した非盲検、無作為化、多施設共同第Ⅲ相試験で、欧州、アジア、北米および南米の19カ国において実施された。

生殖細胞系列BRCA(gBRCA)遺伝子変異について

BRCA1およびBRCA2は損傷したDNAの修復に関わるタンパク質を生成するヒト遺伝子であり、細胞内遺伝子の安定性維持に重要な役割を果たす。

これらの遺伝子のいずれかが変異あるいは変化すると、BRCAタンパクが生成しないまたは正常に機能せず、DNA損傷が適切に修復されない可能性があり、その結果、細胞のがん化につながるさらなる遺伝子変化を起こす可能性が高くなる。

BRACAnalysis診断システムについて

BRACAnalysis診断システムは、ミリアド ジェネティック ラボラトリーズ,インクが開発および製造販売を行い、患者さんの臨床的意義のあるバリアント(DNA配列変化)の分類に関する情報を医療従事者に提供するコンパニオン診断プログラムである。

本邦においては、リムパーザの「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」の適用を判定するための(補助に用いられる)コンパニオン診断機器として、2018年3月29日にミリアド社が承認を取得、6月5日より販売が開始されている。

参照元:アストラゼネカ株式会社プレスルーム

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