10月6日、国立がん研究センター東病院は、治験のスクリーニングに消化器がん患者の血液を用いたリキッドバイオプシーを取り入れた結果、従来の腫瘍組織検査より迅速に検査結果が返却され、より多くの患者の登録につながったと発表した。
腫瘍組織の採取、患者の侵襲が大きい処置である一方で、必ずしも腫瘍組織が採取できないことがある点や組織の解析に時間がかかるため、治療決定に遅れが生じることがあった。がんゲノム異常に基づいた治療薬の効果を検証する治験が世界中で行われているが、腫瘍組織の採取がその障壁となっていた。
リキッドバイオプシーはがん組織を採取せず、採血でがんのゲノム異常を検出することが可能であり、繰り返し実施できる。腫瘍組織を採取できない患者でもリキッドバイオプシーによってゲノム異常の解析ができ、検査結果も早く返却できることで従来の組織検査の障壁を克服する可能性を期待されてきた。しかし、消化器がんにおいて治験のスクリーニング検査としてのリキッドバイオプシーの有用性を主要組織検査と比較された研究は、これまでなかった。
今回の研究では、GI-SCREEN-Japan(腫瘍組織検査)に登録された群(N=5743人)と、GOZILA Study(リキッドバイオプシー)に登録された群(N=1787人)において、登録から結果到着までの期間、治験に登録された患者割合、治験治療効果の比較検討を行った。
研究の結果、登録後から検体到着までの期間中央値はGI-SCREEN-Japanが14日に対し、 GOZILA Studyは4日(P<0.0001)、検体到着後から解析結果返却までの期間中央値はGI-SCREEN-Japanが19日に対し、GOZILA Studyは7日(P<0.0001)であった。
治療標的となるゲノム異常が同定された患者の割合はGI-SCREEN-Japanで54%、GOZILA Study は57%、ゲノム異常に適合した薬剤の治験に登録された患者の割合はGI-SCREEN-Japanで4.1%に対しGOZILA Studyでは9.5%(P<0.0001)を示した。
治験治療で腫瘍縮小を認めた患者の割合は、GI-SCREEN-Japanで16.7%に対し、GOZILA Studyでは20.0%(P=0.69)、治験治療で病気が悪くなるまでの期間中央値はGI-SCREEN-Japanで2.8か月、GOZILA Studyで2.4か月(P=0.70)であった。
さらに研究グループは、リキッドバイオプシーで同定されたゲノム異常のプロファイリングより、新たなドライバー遺伝子異常を複数発見。有用なバイオマーカーや治療標的として、将来的な臨床開発に繋がる可能性を見出した。
今回の研究により、消化器がんにおけるリキッドバイオプシーが治験のスクリーニング検査として有用であることが証明された。この結果により、多くの患者が身体に負担の少ない方法で最適な治療薬にたどり着くことに繋がることが期待される。なお、GOZILA Studyでは、既にリキッドバイオプシーの結果に基づく医師主導治験が複数実施されているという。
GI-SCREEN-Japanとは 国内の主要ながん専門病院や大学病院と協働して、進行消化器がんの患者の腫瘍組織を遺伝子パネル検査(Oncomine Comprehensive Assay)で解析し、治療薬を届ける全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト。
GOZILA Studyとは GI-SCREEN-Japanの基盤を活用し、進行消化器がんの患者さんの血液をリキッドバイオプシーで解析するスクリーニングプロジェクト米国Guardant Health社が開発したGuardant360を用いて共同研究として行っている。
参照元:国立がん研究センター プレスリリース