9月1日、国立がん研究センター研究所と名古屋大学などの研究チームは、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を高精度に予測するバイオマーカーの同定とその測定・検出方法を開発したと発表した。
国内において、2014年に免疫チェックポイント阻害薬が悪性黒色腫に対して保険適用されて以降、さまざまながん腫に用いられているが、治療効果が得られるのは患者の約2~3割と少ないことや重篤な副作用が見られること、医療費が高額であることなどいくつかの課題があった。そこで事前に治療効果を予測し、効果を見込める患者に対して免疫チェックポイント阻害薬を投与するためのバイオマーカーの同定が期待されていた。
今回の研究では、国立がん研究センター中央病院と東病院で進行固形がん(悪性黒色腫、肺がん、胃がん)と診断されPD-1/PD-L1阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ)が投与された患者の治療前の組織標本を用いて、腫瘍浸潤リンパ球に関する詳細な免疫学的解析を実施。探索コホート(39例)と検証コホート(48例)の2コホートを設定し、探索コホートでPD-1/PD-L1阻害薬の治療効果予測バイオマーカーを探索し、検証コホートでは当該のバイオマーカーを検証した。
その結果、腫瘍中のCD8陽性T細胞にPD-1が発現しているほど、PD-1阻害薬は奏効しやすく、制御性T細胞に抗PD-1抗体が作用すると働きを抑え、免疫抑制作用が生じることが判明。CD8陽性T細胞と制御性T細胞上のPD-1発現バランスがPD-1阻害薬の治療効果を高精度に予測すると考え検証したところ、探索コホートにおいてCD8陽性T細胞優位にPD-1が発現しているグループは、PD-1/PD-L1阻害薬治療後の無増悪生存期間が有意に長かった。また、検証コホートでもその効果予測能が検証されたという。
また、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社と共同開発した腫瘍組織生検検体から腫瘍浸潤リンパ球を調製する手法が実用化可能であることも今回の研究によって示された。
国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野、先端医療開発センター免疫TR分野の西川博嘉氏は解析のためのがん組織処理技術について「これまでの解析は末梢血からであったが、この方法ではがんを診断する際の生検検体で解析が可能であり、作成した保存液に漬けることで、リンパ球が解きほぐされて解析がしやすくなることに加え、採取後72時間までは検体が変化しないことを担保した」と述べている。
さらに、今回のバイオマーカーの同定について「従来化学療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用していたが、バイオマーカーを使用することによって、効果があると予測される患者さんに対してはPD-1/PD-L1阻害薬単剤の投与が可能になり、他の薬による副作用を回避することにつながるのではないかと期待している。今後この方法はがん腫を問わず広く使用できるのではないかと考えている。ゲノム医療というと、現在はゲノム変異を調べて分子標的薬を使用することと考えられるが、その概念に今後は免疫療法も含まれ、免疫療法でのプレシジョンを目指していきたい」と語った。
なお、研究グループは今後、同定した治療効果予測バイオマーカーを使用し、臨床的有用性を検証する臨床試験へと展開していく予定としている。
PD-1について 免疫細胞上に発現する免疫チェックポイント分子であり、樹状細胞やがん細胞に発現するPD-L1などと結合することで免疫細胞の働きを抑える。免疫チェックポイント阻害薬により、PD-1とPD-L1の結合を阻止することで免疫細胞が本来の働きを取り戻し、がん細胞を攻撃するようになる。
制御性T細胞について 体内のCD4陽性細胞の中でFoxP3を強く発現するT細胞集団。エフェクターT細胞による免疫応答を抑制する働きがある。
エフェクターT細胞について サイトカインなどを産生して標的細胞の排除に関わる免疫細胞。抗腫瘍免疫応答ではがん細胞に発現するがん抗原を認識してがん細胞を殺傷すると考えられている。CD8陽性のT細胞集団がこの一種。
参照元:国立がん研究センター プレスリリース