家族性膵臓がんの日本人における関連遺伝子を解明ー大阪大学らー


  • [公開日]2020.08.08
  • [最終更新日]2020.08.08

8月8日、大阪大学は、東北大学、国立がん研究センター、東京女子医科大学、杏林大学、みずほ情報総研株式会社らとの研究グループで、日本における家族性膵臓がんの原因となり得る関連遺伝子を特定したと発表した。

家族性膵臓がんは、膵臓がんのうち、第一度近親者(親、子、兄弟姉妹)に膵臓がん患者が2人以上いる家系で発生するがんであり、膵臓がん発症者がいない家系と比較すると、10倍近く発症率が高いと言われている。欧米では疫学研究が進んでおり、家族性膵臓がんは膵臓がんの約5~10%を占めることが明らかになった。そこで欧米では原因関連遺伝子の解析が積極的に行われていたものの、日本を含むアジアにおいては解析が行われていなかったため、大阪大学谷内田教授らが研究を行ったという。

新規家族性膵臓がん関連候補遺伝子FAT1、FAT4、SMAD4なども同定

今回の研究では、81人の家族性膵臓がん患者を対象に、生殖細胞系列の塩基配列を網羅的に次世代シークエンサーで解析(全エクソーム解析)を実施。その結果、日本人における家族性膵臓がんの関連遺伝子はATM、BRCA1/2、CHEK2、PALB2などであること、新規の関連候補遺伝子としてFAT1、FAT4、SMAD4などを同定した。

BRCA1/2やPALB2遺伝子変異は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の原因遺伝子として知られており、BRCA1/2に病原性のある生殖細胞型バリアントをもつ膵臓がんにおいてもHBOCと同じく、PARP阻害剤であるオラパリブが抗腫瘍効果をもたらすことが海外で報告されている。日本においても家族性膵臓がん家系である場合は定期的な検査を推奨し、関連遺伝子を調べることで特定の抗悪性腫瘍剤の効果が期待できる可能性があるとしている。

研究責任者である大阪大学の谷内田教授はプレスリリースで、「アンジェリーナ・ジョリーさんの予防的乳房切除術で遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)が広く世間に知られるようになりました。膵臓がんにおいても5~10%は家族性と考えられています。しかし家族歴のある患者においても、その原因となり得る関連遺伝子がみつかるのは、欧米のデータと同様に約20%です。依然として不明なことが多いのが現状だと思います。家族性膵臓がんの存在を啓蒙して、今後、家族性膵臓がんに関する研究を加速し、その全容解明を行い、診断や治療に結びつけたいと考えています」と述べている。

日本膵臓学会は、家族性膵臓がんのAll Japan体制での大規模コホート研究を行うために、「家族性膵癌登録制度」を実施している。また、日本における膵臓がん克服のため、原因となり得る関連遺伝子のさらなる探索、早期診断や新規治療法の開発につながる研究が計画されているという。

なお、この研究成果は、米国科学誌「Annals of Surgery」に8月8日付でオンライン掲載されている。

家族性膵臓がんについて
親子または兄弟姉妹(第一度近親)に2人以上の膵臓がん患者が刈る家系に発症する膵臓がん。

生殖細胞系バリアントについて
親から生まれつき引き継いだ全身のある遺伝子変異。多くの人が持っているDNAの塩基配列と異なる配列を持ち、その種類により、良性(無害)、おそらく良性、意義不明(VUS:Variant of Unknown Significance)、おそらく病原性、病原性(疾患を引き起こす)に分類される。

PARP阻害剤について
PARP(ポリアデノシン5ʼ二リン酸リボースポリメラーゼ)は、DNA修復や細胞死に関連する物質であり、BRCAの遺伝子変異などで相同組み換え修復経路に異常があるとPARP阻害剤によりDNAの修復を妨げがん細胞の細胞死を誘導する。日本では卵巣がんや乳がんの一部にPARP阻害剤が保険適応となっているが、膵臓がんでの適応は未承認である。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

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