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肺がん患者の治療と就労の両立に向けて医師が果たす役割とは?Cancer Medicine誌より


  • [公開日]2020.07.22
  • [最終更新日]2020.07.21

分子標的薬免疫療法の登場により肺がんの薬物療法は選択肢が増え、治療を続けながら、就労を含めて診断前と同様の日常生活を送れる患者が増えつつあるが、実態はどうなっているのか、日本肺癌学会が調査した。肺がん患者の就労状況、就労への考え方を中心として患者、医師の双方を対象とする意識調査のデータを分析した結果、治療と就労のバランスを保つために医師の果たす役割にはまだまだ考えるべき余地があるとする結論が導かれた。近畿大学の光冨 徹哉 教授をリーダーとする研究チームが、2020年7月13日のCancer Medicine誌オンライン版で報告した。

調査対象として協力を求めたのは、2019年7月23日現在で肺がん患者レジストリに登録されている1650人の患者と、2019年8月1日現在で日本肺癌学会の全医師会員8241人で、「肺がんの治療と就労の両立に関する調査」と題するウェブ調査への回答を募った。回答期間は、患者が2019年7月23日から9月3日、医師は2019年8月1日から9月3日であった。回答は無記名で、個人情報保護法に則り、分析データには個人特定につながる情報は含まれないことなどや、調査への参加に金銭の対価はないことなど、情報の取り扱いに関する重要事項を周知した。

回答期間が終了し、データを集計したところ、回答者数は、患者が287人、医師が381人で、回答率はそれぞれ17.4%、4.6%であった。患者回答者の年齢は、51歳から60歳が40.8%、41歳から50歳が31.7%で、40歳代から60歳代が全体の70%以上を占めた。医師回答者の年齢は、41歳から50歳が33.6%、51歳から60歳が26.0%で、40歳代から60歳代が全体の約60%を占めた。これら回答者の背景を含め、質問項目は、患者に対し大問11問、医師に対し大問4問であった。

この調査の分析は、肺がん患者の治療と就労の両立について、医師側の意識に焦点を当てたもので、研究チームは、患者個別の状況を踏まえた支援に取り組むために重視すべき医師の役割として、次の3つの点を指摘した。

(1)医師には、患者の就労について率先して話題を提起する役割がある

今回の調査では、90%以上の医師が、自身が担当する患者が仕事を続けたいと望んでいるか、あるいは、仕事を続ける理由と状況に応じて、支援したいと回答した。一方の患者側では、薬物療法を開始する前に、就労状況や治療開始後の就労継続の希望について、医師をはじめとする医療者側と話し合いを持ったと答えた割合はわずか22.6%にとどまり、42.9%の患者は就労に関する話をしたことがないと答えた。

厚生労働省が2015年に行った調査では、がんと診断された時点で就労していた患者の21%が診断後に間を置かず退職しており、40%以上の患者が治療開始前に退職しているという。研究チームは、がんと診断されてから特に2週間は患者が苦悩している時期で、重要な意思決定が難しい時期であることは容易に想像できるとし、診断によって突然の退職に追い込まれないためにも、このタイミングで、患者が就労についての自身の意見や不安を話せる雰囲気を作ることに、医師の役割があるとしている。

(2)医師には、薬物療法の選択に患者個別の就労状況を考慮する役割がある

今回の調査では、45.3%の患者が薬物療法開始後に休職、または退職を余儀なくされたと回答した。副作用や肺がんの病勢によって体調が悪いのが主な理由であった。患者の28.9%は、治療と就労の両立にとって最も重要なことは、副作用の少ない治療の選択肢を提供してもらうことと回答している。

労働年齢の進行性肺がん患者の薬物療法は、細胞障害性抗がん剤免疫チェックポイント阻害薬併用療法が現在標準的であるが、副作用の内容や身体への負担は個人差があり、職種によっても副作用の許容範囲が違う。従って研究チームは、治療の選択肢を提示する際、医師が副作用によって生活が脅かされることを念頭に置き、副作用の影響が職種によってどのように異なるかを含めて、知見や知識を活かした対応を心掛けるべきで、患者と対話しながら最良の治療法を選択することが望ましいとしている。

(3)医師には、患者の職場に関する情報共有が必要な場合もある

患者が望めば、医師は、患者の雇用主である企業など職場に関する情報を積極的に収集する必要がある。というのも、事業所によっては、雇用している患者ががんと診断された場合の対応を決めていない、対応に関する情報を持たない企業もあり、がん患者が働く職場の環境は個別に異なり、雇用主との関係性によっては治療と就労の両立が難しい場合もある。実際、2017年に行われたある調査では、雇用者ががんと診断された場合に専門家に相談して助言を求める制度が整備されている企業はわずか18.4%、雇用者が企業にがんを打ち明けた際に、その主治医に直接相談して助言を求めた企業はわずか16.0%であった。

こうした背景を踏まえ、医師は、患者の体調・体力を考慮して就労の能力を見極め、治療の継続に伴い予想されることなど、治療と就労の両立に重要な情報を雇用主と共有し、患者が社会とのつながりを維持できるように支援する役割がある。2018年には、「仕事と治療の両立支援に関する診療報酬ガイダンス」を厚生労働省が新設した。がん患者の治療と就労の両立を支援するための対応に、企業や事業所と医療機関が連携して取り組むことを促している。

なお研究チームは、今回の調査で用いた質問・回答項目は同チームが独自に作成したもので、過去には一切使用されていないこと、このウェブ調査への回答に応じた患者と医師は、肺がん患者の治療と就労の両立について積極的な問題意識を持っている人物である可能性が高いことなどを踏まえ、ある程度のセレクションバイアスがあるとしている。従って、この調査の分析結果はすべてのケースに当てはまるわけではない。そして、肺がん患者に対する就労支援の取り組みは一時的なものではなく、継続していくものであると明示している。

Importance of doctor‐initiated management of the balance between work and treatment for lung cancer patients: Results of a nationwide survey by the Japan Lung Cancer Society(Cancer Med. 2020 Jul 13. doi: 10.1002/cam4.3307. Online ahead of print.)

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