7月8日、エーザイ株式会社と米国のメルク社(北米以外ではMSD)は、切除不能の肝細胞がんのファーストラインとしてFDAに迅速承認申請を行っていたレンビマ(一般名レンバチニブメシル酸塩、以下レンビマ)とキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ、以下キイトルーダ)併用療法について、審査完了通知を受領したことを発表した。
レンビマは腫瘍血管新生や腫瘍悪性化に関する受容体型チロシンキナーゼ阻害剤である。一方、キイトルーダはPD-1とそのリガンドであるPD-L1、PD-L2の作用を阻害して、がん細胞を攻撃するTリンパ球を活性化するヒト化モノクローナル抗体(抗PD-1抗体)である。非臨床研究モデルにおいて、レンビマが抗腫瘍免疫活性を示した。また、抗PD-1抗体と併用することで、がん微小環境において相乗効果による抗腫瘍活性が上回ることが示唆された。
今回の迅速承認申請は、切除不能な肝細胞がん患者に対しレンビマとキイトルーダを投与し、有効性と安全性を評価した、第1相試験116/KEYNOTE-524試験の結果に基づく。その結果を受けてFDAよりブレイクスルーセラピーの指定を受けたが、他剤の併用療法の試験結果により「本申請は、全身性の前治療歴のない切除不能または転移性の進行性肝細胞がんに対するレンバチニブとペムブロリズマブの併用療法が既存の治療法に対して意義のある優位性を示すエビデンスを提示していない」と116/KEYNOTE-524試験は迅速承認の条件を満たさないという判断が下された。
エーザイとメルク社はレンビマとキイトルーダの併用療法の臨床上の有効性とベネフィットに関するエビデンスを示すため、臨床試験の推進を含め、FDAと今後の対応について協議する方針。また、すでに進行性肝細胞がんへのファーストラインでのレンビマとキイトルーダ併用療法を評価する第3相試験LEAP-002試験を進めている。他にもレンビマとキイトルーダの併用療法は13種類のがんにおいて18の臨床試験を進めている。
レンバチニブメシル酸塩(レンビマ)について
血管内皮増殖因子受容体(VEGFR1/2/3)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR1/2/3/4)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFRα、KIT、RET)などの腫瘍血管新生または腫瘍悪性化に関連する受容体型チロシンキナーゼへ選択的に阻害する経口可能なマルチキナーゼ阻害剤。非臨床研究では、がん微小環境下での免疫抑制因子である腫瘍関連マクロファージを減少させ、インターフェロンガンマ(IFN-γ)シグナル伝達刺激により活性化細胞傷害性T細胞を増加させることで抗腫瘍免疫活性をもたらす。
単剤療法では甲状腺がんへの適応では60か国以上、切除不能肝細胞がんへの適応では55か国以上で承認を取得している。また、血管新生阻害剤治療後の腎細胞癌に対しては、分子標的薬であるエベロリムスとの併用療法で55か国以上で承認を得ている。さらに全身療法後に増悪した、根治的手術または放射線療法に不適応な高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機構欠損(dMMR)を有さない子宮内膜がんに対してペムブロリズマブとの併用療法で米国などで承認を取得している。
ペムブロリズマブ(キイトルーダ)について 自己の免疫力を高め、がん細胞を攻撃するのを助ける抗PD-1抗体。PD-1とそのリガンドであるPD-L1とPD-L2の相互作用を阻害して、がん細胞を攻撃するTリンパ球を活性化するヒト化モノクローナル抗体。メルク社は現在1200以上の臨床試験を実施し、あらゆるがん種において治療効果やバイオマーカーを模索している。
116/KEYNOT-524試験について 全身投与治療歴のない100名の切除不能な肝細胞がん患者に対する単群第1b相試験。レンビマを体重60kg以上は12mg、60kg未満は8mgを1日1回投与、キイトルーダを3週ごとに200mg投与し主要評価項目として奏効率(ORR)と奏効期間(DOR)を評価。腫瘍径の変化を効果判定とした際の従来の評価基準であるRECIST1.1でのORRは36%、DOR中央値は12.6ヶ月、腫瘍壊死領域を効果半手に加えたmRECISTでのORRは46%、DOR中央値は8.6ヶ月を示した。
参照元:エーザイ株式会社 プレスリリース